劇場公開日 2018年6月23日

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「ひとつだけ残念な『カメラを止めるな!』」カメラを止めるな! アストロ温泉さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ひとつだけ残念な『カメラを止めるな!』

2018年12月14日
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鑑賞方法:映画館

『ドラゴンボール』も『スラムダンク』も『ガンダム』も、さんざん人から「おもしろいよ!」って薦めてもらったのに、そして、「きっとおもしろいんだろうなぁ~」という事もわかっているのに、なんとなくみたことが無い。
イヤな訳でもなく「なんとなく」。
自分でもそうなんだから、「なんとなく観る気にならない人」を動かすにはどうしたらいいんだろう……、などということを考えてしまうほどに『カメラを止めるな!』は人にオススメしたい映画だった。

いや、わかるんですよ!もう、ここまで流行ってしまって、みんなが口を揃えて「おもしろかった!」って言ってるような映画をいまさら観に行けない、って気持ちも。
まぁ、評論家とかライターとか、「映画を観ること」が仕事の人だと別かもしれませんが、そうじゃないあなたがどんな映画を観ようが観まいが「いまさら?」とか「恥ずかしい!」とか感じる人はどんなに多くともこの世にたったひとり、あなた自身しかいないんですけどね。

みんなが「ネタバレ絶対厳禁!」ってしつこく言ってくるのもイヤなんですよね。わかります!ただ、別にいじわるしてる訳じゃないんです。
『シックス・センス』だったら、「……で、実はブルース・ ウィリスが……おぉ~っと、ここから先は実際みて!」とか言えるんですが、みんな『カメラを止めるな!』みたいな構造の映画になんて出会ったことがなかったから(少なくとも、私はこんな映画を観たことがなかったから(「どんでん返し的な要素がある構成の映画を観たことがない」とか「メタフィクショナルな構造が骨子にある映画を観たことがない」とか「舞台裏が舞台の映画を観たことがない」って話ではないです。念のため。))、「あれ?これ、そもそも『ブルース・ ウィリスが登場する』ってことすら言ったらネタバレになってしまうのでは……?」って気がしてなにも言えなくなってしまうんですよね。(『カメラを止めるな!』にはブルース・ ウィリス出ないですけど。)

私はほんとに、『カメラを止めるな!』には5つ星満点で星90000個あげたいぐらい大好きなんですが、それでもひとつ、残念なところがあります。
「『カメラを止めるな!』をみた」っていう人と会って話をしても、結局なんか「いや~、よかったよね~!おもしろかったよね~。最高だよね~。」という話で終わってしまうんですよね。

もっと、こう、好きな映画については「あれはナイわー」とか「その代わりアレが効いてる」とか、めんどくせぇ事をごちゃごちゃ言いたくなっちゃうのが歪んだファンの愛情であり人情でもあると思うんですが、それを言えないくらいよく出来てる上に、全編に対していとおしさが湧いてしまって、あまり意味のないいちゃもんをつける気になれないんですよね。

こういう映画って、前半が後半の伏線回収のためのモノになってしまいがちで、『カメラを止めるな!』もまぁ、それはそうではあるんですが、「ワンカット」というチャレンジ要素が入ることで後だしジャンケンになってしまうことを絶妙に回避していたり、「うまい」んですよね~。

その点、レビューサイトとかで低い点つけてる人の評をみると、だいたい的はずれな事を書いてたり「もう、そんなん私的怨念やん」みたいな事だったり……。あまのじゃくはあまのじゃくでいいからもっと格好いいあまのじゃくをみせてくれよ、っていう……。
「こんな映画を持ち上げるなんて、日本の映画の観客のレベルの低さは嘆かわしい」とか、そんなのもう映画の評価ですらないし。私だって私以外のみんなだって、別に「『レ・ミゼラブル』とくらべても『カメラを止めるな!』は……」なんて話は誰もしてないっての。

もっと、観た人同士で
「『生放送』の時に、例えばギャルと知ったかぶりの彼氏が家で観てて、『なんかこれ、トラブってな~い?』『わかってねぇな~。これはロメロ監督のオマージュで……』とか話すシーンいれる、とかは?」
「いや、第三者の視点を入れるならあの『子役』と『ババァ』が家で観てて、子役が『ねぇお母さん、このお姉ちゃんも“目薬”?』って聞いてババァを困惑させた方が……」
みたいな話とかしたいんですが……。

でも、その程度のアイデアなら、あの脚本書いた監督なら絶対思いついてると思う!そして、その上でそれを切って「テンポ」を取ったからあのドライブ感が出てるんだ!と!思う!たぶん!

『カメラを止めるな!』を観たくない、って人の中には、たった2館から始まった上映が口コミで300館以上にまで広まったこの映画だからこその、出演者やスタッフ、そしてファンをも含めた熱狂的な一体感に気後れしてしまった、という人もいるかもしれない。人によっては学園祭で盛り上がってるグループとそれに入れなかった自分、みたいな図をイメージしてしまうかも……。

でも、この映画はそんな「盛り上がってるグループに入れなかった人」こそ観るべき映画なんだ。

『カメラを止めるな!』には、有名な人や知ってる俳優さんがひとりも出てこないんです。ということは、出てる人やスタッフの中にも、「いつか売れたい」「きっと有名になってやる」と思いつつも、今まではどうにもならなくて苦しみながらもがいていた、っていう人もいたのではないかな、と思うのです。
なにかをなんとかしたいのに、なかなかどうにもならなくて、昨日とおなじ今日、明日、あさってをじわじわ溺れながらなんとか泳いでいた人たちが……、いや、実際そんな人がいたのかどうかはわからないですよ。

でも、映画の中で不器用なキャラクターたちが血まみれになって涙を流してぶつかりあって作品をつくる様子からは、そのままこの『カメラを止めるな!』という映画をつくった側の人たちの物語をシームレスに想像させられてしまうのです。

人生において「盛り上がってるグループに入りそこなった人」でも、汚くてもみっともなくても、もがいてさえいればそれがいつか何かになることもある、ということを、現実の大ヒットという形でこの作品はみせてくれたのです。
(いや、繰り返しますが「盛り上がってるグループに入りそこなった人」が作った映画、ってのはあくまでも私の勝手な(そしてめちゃくちゃ失礼な)想像ですけどね……!)

この映画の評判がまさに感染のように爆発的に広まって大ヒットに至るまでの様子は、『ONE CUT OF THE DEAD』から数えて3番目の物語である『つくった側の人たちの物語』にまで胸熱くなってしまったファンにとっては、たまらない興奮と感情移入を伴った「応援したい」という気持ちを呼び起こすものだったのではないでしょうか。

盗作疑惑が報じられるも、結局それがこの作品のヒットの勢いを殺すほどのものにはならなかったのも、観ている人たちの心の中の日暮監督が「止めない!」と叫んだからなのかもしれません。

そういうところも含めるとやっぱりこの作品は「ある意味の事件」であり、それは「映画館じゃないと観れない映画」ということでもあり、そうじゃなくてもまず構造的に「37分間のワンカットがある」という時点でテレビ放送はかなり難しそう(CMを入れにくいし、どこにCMをいれたとしても著しく面白さを損なってしまいそう……)だし、DVDで観ると意味が変わってしまうし、やっぱり映画館で観ることをオススメしたくなってしまうんですよね……。

……って、こんな風に熱く薦められるとなんとなく引いてしまうって人の気持ちもすご~くわかるんですけど。

アストロ