「人は近すぎると、愛し方を忘れるものだよ」台北暮色 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
人は近すぎると、愛し方を忘れるものだよ
世間を見渡せば、何気ない日常を過ごしているように見える人たちであふれているが、それでいて誰しも、他人には知り得ない過去を抱えて生きているものだ。
ある家族のいさかいを目にした男は、女に、人は近すぎると衝突するんだと言った。そして、人は近すぎると愛し方を忘れるのだと。
直近にまさにそれと酷似した事案を抱えていた僕は、まるで自分に向けて言っているのか?とさえ思った。そのセリフがストンと僕の胸に着地し、歩道を駆けていく二人を眺めながら、はらりと涙がこぼれてきた。二人がただ走り、疲れて座り込み、意味なく笑いあう。それでなんで泣けてくるのだろう? しかも、涙を流している僕の感情は悲しさや寂しさではなく、二人の感情を共有できた満足があった。音楽のせいもあるだろう、女優の表情のせいもあるだろう、台北の景気のせいもあるだろう。そんな、スクリーンに映されている映像が、とても心地よかった。
薄い関わりしかない他人同士でも、近くにいるだけでその人の人生に関わっている。人は、ひとりじゃ生きていけないって本当だなあ、と優しく教えてもらえたようだった。
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