「2022年最高傑作」アバター ウェイ・オブ・ウォーター TF.movさんの映画レビュー(感想・評価)
2022年最高傑作
物語の進行としては前作とパラレルなものであり、多くの類似点を見ることができる。ナヴィとスカイピープルの対立構図、幾度となく襲いかかる人間の脅威に対し、基本的に劣勢のナヴィがなんとか立ち向かい、最後には一定の勝利を収める。別人種が混じり合い、絆を深めていく。但し、本作で異なったのは、主人公ジェイクの所属意識がオマティカヤ族から自身の家族へと変移したということだろう。そして何よりも大きな進化を遂げたのは、世界観の奥行きと、圧倒的な映像美だ。前作の時点で世界観は確立され、映像のクオリティーも群を抜いていたが、本作ではそれらがより洗練され、現代映画の到達点を示してくれた。
さて、本シリーズは、ジェームズ・キャメロンの集大成としての位置付けな訳だが、その世界観やストーリーには多くの元ネタが存在する。それはジェームズ自身も認めることのようで、前作の公開後多く議論された問題でもあった。例えば本作では、『スターウォーズ』の要素や、『風の谷のナウシカ』の要素を見てとることができた。スターウォーズが元ネタとなったと考えられるものを以下に挙げたい。1つに、「エイワ」と呼ばれるナヴィに共通するネットワークのようなものだ。これはスターウォーズにおける「フォース」という要素に重ねることができ、それらは両者ともに世界観の根幹に存在するものだ。これは『進撃の巨人』におけるユミルの民の座標とも似通って見えるが、公開時期を考えると、どちらかがもう片方を参考にしたとは考えにくい。また本作におけるスターウォーズとの最大の類似点であると考えられるのが、「敵対する親子が絆を取り戻す」というストーリーラインだ。スターウォーズでは誰もが知る通り、ダースベイダーがルークに自らが父親であることを告げ、最後は息子のために命を落とす。本作では、マイルズ(大佐)とスパーダーが親子関係であり、スパーダーがネイティリによって人質に取られた際にはマイルズが助け、またマイルズとジェイクの決闘後、海中に取り残された彼をスパイダーが助けた。このように、本作ではスターウォーズ同様に敵対関係でありながらも絶えることのない親子の絆が象徴的に描写された。先に述べた通り、本作ではジェイクの所属意識が家族へと変移したこともあるから、全体を通して「家族」というものにスポットが当てられ、さまざまな家族の絆の形を描写している、というのが本作の大きな特徴であると考えられる。
元ネタはまだまだ存在する。ラスト、ネテヤムを母なる海へ返すシーンがある。かのシーンは完全に『風の谷のナウシカ』のラストシーンが元となっていると言える。但し、ナウシカの場合は「金色の野」に降り立ったことで生き返るが、本作の場合はそんなにうまくはいかない。海は生かし、海は奪う。世の摂理に決して逆らうことはなく、あくまで生命は不可逆的であり、神秘でもない。エイワはただひたすらに真っ直ぐに、現実を突きつけた。兎角、光の触手のような描写については、酷似していると言って良いだろう。
他にも、キリがエイワを介して他の生物を操る能力を開花させたことも、ある意味で例えば『ファンタスティック・ビースト』の模倣感を感じた。キリの危うさ、「暗黒感」のようなものが本作中にたびたび見られたから、次作以降、ファンタビでいうオブスキュラスのような存在になっていき、今後の展開のトリガーとなるのではないか、と予想される。
正直、文句のつけようがほとんどない、期待通りの作品であった。宿敵である大将が生き残り、次作への布石となっていた点も、その展開を「家族」にフォーカスすることで本作全体の主題へと結びつけ、ごく自然な形で迎えたことも、素晴らしいとしか言いようがない。ただし、二作目にして世界観の拡張は行われたが、構成自体に大きな変化はなく、主軸となるスカイピープルとの対立構図も依然堅持されており、同様の構成が続くようではマンネリ化は避けられないのではないかとも思う。だからと言って人間側から描き、ナヴィ側が悪に見えるような作品が生み出されるとも考えにくい。それをするにはあまりにも人間を絶対悪として描きすぎたし、単純な善悪二元論を否定し、正義の裏にはまた別の正義があるという主題については、媒体が違えど『進撃の巨人』が達成しているから、二番煎じのようになってしまう。そもそも、本作はストーリー構成以前に映像と音響の探究が非凡であり、あえてストーリー性における画期性を求めていく必要はない。だからこそ、作中に多くの作品との類似点を見ることができ、それにより観客が受容しやすく、また王道であるが故の安定感も感じられた。マンネリ化への対策は何かしら考えられているだろうから、次作に本当に期待が持てると感じる。私が予想した、キリがキーパーソンとなり展開していくという説か、それとも全く別の角度から物語を転換させてくれるのか、今から楽しみだ。