「アパートの一室から戦争を描く。その研ぎ澄まされた構造に様々な思いを喚起させられる」シリアにて 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
アパートの一室から戦争を描く。その研ぎ澄まされた構造に様々な思いを喚起させられる
いま世界のどこかで起きている出来事を伝えるのが報道の役割だとすれば、映画にできるのはそこに息づく人々の感情の機微を伝えること。そうやって我々が“他者と自分”とを重ねあわせ、共感の倍音を広げていくきっかけを提供することだと思う。その意味でこの映画は、シリア内戦について通り最低限の知識しか持ち合わせていなかった自分に、初めてそこで暮らす人々の表情と感情を伝えてくれた貴重な一作となった。そして本作は描き方にも特色を持つ。戦争や内戦を「面」で捉えるではなく、家族が息を潜めて暮らすアパートの一室という「点」から捉える。そうやって窓越しのわずかな風景、鳴り止まない銃撃、近まってくる爆撃から外の世界を想像させるのだ。演劇的とも言える手法だが、狭い室内でカメラが登場人物の感情に寄り添い続けるアプローチは映画ならでは。非常に研ぎ澄まされた構造と、何よりも俳優たちの存在感に、様々な思いを喚起させられる作品だ。
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