「ロレンツォは何にも悪くないし、変わらなくていいのに。」最初で最後のキス だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
ロレンツォは何にも悪くないし、変わらなくていいのに。
ロレンツォは何にも悪くない。
好きな格好をしていい。
好きになった人に好きって言っていい。
好きな人とキスして浮かれて反芻していい。
うきうきでアントニオを迎えていい。
ガガ様の言う通り''I'm beautiful in my way''が、正しいんだよ。
わたしは誰にも咎められなかったもの。
わたしは無難な格好が好きで、男が好きな女だから、何にも言われなった。
ただ自分だけを持て余すことが出来た。誰の思惑をも無視してただ欲望に正直にいられた。
それがロレンツォにも与えられなきゃいけない。
そうできないなら悪いのはロレンツォじゃない。
ロレンツォを取り囲むものが変わらないといけない。
ブルーがヘイリースタインフェルドと少し前のエマワトソンに似ていた。それもあって「ウォールフラワー」を思い出す映画だった。
ブルーは、彼氏(と言う名のゲス)に4Pの映像を見せられて、怖くて見ないようにしていたけど、これは「わたしが望んだ楽しい4P」じゃなくて「レイプ」だってわかってしまった。辛かったね。ちゃんと大人に話して偉かったね。あなたは何にも悪くないよ。
アントニオはどうしてみんなと馴染めなかったのか。
それは上手く読み取れなかった。
バカだからとは言われてたけど、セリフのみ。
バスケチームからも最初からちょっと浮いてたような。
大元はよくできて人気者の兄が事故死したその喪失感と、兄のようにならねばという呪縛がアントニオの目を曇らせていたのかなぁと思った。
イタリアはカトリックが強いし、田舎のほうは相当前近代的な価値観が残っていそうだから、アントニオは「自分がゲイかもしれない」ってことをちらっとも思ったことがないみたい。
サマーを好きなのはそれはそれでいいし、ロレンツォの思慕を受け入れられなくても仕方がないけど、ロレンツォとのキスを興奮を持って受け止めてしまったことを、アントニオ自信が受け入れられなかったことが、あかんかったよなぁと思う。
いいじゃん、ゲイかどうか曖昧で。
女の子に恋してるけど、男の子とのキスも興奮した。
それっておかしいことかな?
そういうものだ、でいいんじゃないのかな?
でもそうはアントニオは思えなくて、ゲイかもしれない自分が怖くて、その道に引き込もうとしたロレンツォを撃たないとって、お兄ちゃんも嗾すし。
そうして悲劇になった。
悲しい。
アントニオがホモフォビアに怯んだことはもちろん個人の幼稚さの現れだけど、環境が育んだものも大きいのと思う。
ブルーが回想で、悲劇にならなくて済んだかもしれない過去のシーンを提示していたけど、本当にそうであったらと思った。
最近わたしは、自分が本当にヘテロなのかについて考え直している。
自発的に恋をしたのは確かに男だけだけど、10代の頃はふざけてよく女の子にキスをした。
握手のような性的興奮を引き起こさないキスだったけど、心地はよかった。
特段今はしたいと思ってないけど、多分しても嫌じゃない。
それ以上のことをしたとして、嫌悪感はない、多分。
興奮するかはわからないけど、ちっとも興奮しないってことはない気がする。
そして女の裸、特にきれいなおっぱいが好きで、見るとラッキーって思う。
そんなわたしはヘテロではなく、無自覚なバイセクシャルなのかもしれない。
そうだとしてなにが困るだろうと思うようになった。
そしてセクシュアリティの線引きはとてもゆらぎのある曖昧なもので、明日には変わるかもしれないんじゃないかとも。
揺らぐことを前提に自認する、でいいんじゃないのかな。
そうアントニオに言いたい。