「エンディングが良かった」スリー・ビルボード talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
エンディングが良かった
ノマドランド、ファーゴと異なり、この映画の舞台はアメリカ合衆国でも緑があり郊外には美しい湖がある町だ。砂漠も雪原もない。季節はイースターの頃、春来たるの陽射しで花も咲き庭でブランコに揺られることもできる。音楽も昔のアメリカの歌で穏やかで懐かしい気持ちになる。そんな季節と音楽を背景にストーリーはこちらのほっぺたをひっぱたくような内容だった。
みんながみんなを知っている小さな町で、顔を上げて堂々と行動するミルドレッド(マクドーマンド)が周りに石をぶん投げる。当然彼女にも色んなものが降りかかる。嫌がらせ、応援と共感、資金援助、仕事仲間が逮捕される、署長の死と手紙、火事には火事を。ミルドレッドは何をされてもその都度毅然と対抗する。一方でディクソンの成長物語があり、署長からの手紙と病室でのオレンジジュースが彼にきっかけを与えた。
常に強くて逞しく見えるマクドーマンドは警察と他人と自分への怒りにまみれている。その怒りは映画を超えて、白人警官による黒人虐待や妻へのDVや聖職者による男の子への性的虐待が示唆されることでより燃え上がる。同じ立場・職業のあなたが見て見ぬ振りをしたらあなたも同罪だと映画が突きつけてくる。
最後がああいう終わり方であることが私には非常に良かった。犯人逮捕で終わって大団円だったら観客はカタルシスを得てしまう。いい映画見たね、じゃ、どこに食事に行こうか?になってしまう。カタルシスを与えたらだめな作品というのがあると思う。捕物帳とか勧善懲悪でまとめるんじゃなくて、人間の世界は悪いばかりではないけれど単純ではない、それに裏に何があるかわかったもんじゃないよ、がこの映画のメッセージの一つだと思うから。そのためにも、舞台が広いアメリカ合衆国でどこへ行くにも車が必要で目的地まで延々と車を運転しなきゃならない場所が必要なんだと思った。ハンドル握りながら助手席に座りながら広い広い同じ風景を見ながら考えることができるから。どうしょうか?まだ決めなくていいね、ちょっと考えてみようか、などと話したり考えたり黙ったりできる。沈黙もコミュニケーション。目的地にすぐ到着してしまうような狭い土地や渋滞ばかりの場所ではダメだ。短絡的になってすぐ頭に血がのぼってしまう。
広大な大陸を運転する姿がマクドーマンドほど似合う女優は居ないと思った。
コメントありがとうございます。
talismanさんのレビューが、心に染みて、奥深いです、本当に。
ミルドレッドが、警察と他人と自分への怒りにまみれる
・・・彼女は自分にも怒り(ある意味では絶望も感じている)
・・・だから余計に辛くて怒り狂う、
ディクソン巡査と実は根底には同じ通じ合える共通する諦観・・・自分への失望とか、うまく言えませんけれど、悲しみとか・・・ですか?
マクドナー監督の描く世界は、とんでもない感情を露わにして、
抉られて驚かされます。
「庭の千草」の歌で始まるのも素敵でしたね。