「私は気付けなかった」スリー・ビルボード 字幕 アンゼたかしさんの映画レビュー(感想・評価)
私は気付けなかった
この作品は「地位のある白人男性は嘘をつかない」「男に楯突く女は生意気」という先入観がある人程、隠された真実に辿り着けない。まざまざと見せ付けられました。
脚本と完成されたトリック。最後まで見ても、結局犯人は誰なのか分からず、ラストの2人は反社会勢力である第三者に娘をレイプして焼かれた想いを、諦め半分で区切りをつけるのかな〜というぼんやりした予想をして終わりましたが、全くの見当違いにもありました。
まずスリービルボード、三つの広告看板の配置が盛大なミスリードになっている。手前から読む事が肝心。
なぜ?ウィルロビー署長は
まだ逮捕されないの?
殺しながらレイプしたというのに
ストレートに大胆ですね。観た後も気付けず、解説を読んだ後は震えました(笑) 私もミルドレッドを非難する哀れなエビングの市民なんだと。
あの正義感に溢れた、地位のある白人男性がまさかまさかこんな痛ましい事件の主謀者だなんて誰が思うだろうか?奇行を繰り返すディクソン巡査に目が行きがちで、彼の後半の行動に拍子抜けしたり。そうすると、署長が犯人ならあの突然の自殺も遺した手紙も頷ける。
先入観による錯覚とは恐ろしい。
序盤のミルドレッドは三つの看板から始まり、息子のクラスメイトを殴ったり、衝動的に警察署を放火したり復讐の連鎖に捕らわれていたが、署長の自殺により復讐の機会を有耶無耶にされてしまう。
それが後半になるにつれて、署長の(自殺による)贖罪にレッドのオレンジジュースの下りだったりディクソン巡査の行動に、復讐の連鎖が許しの連鎖に変わって行く。
放火を認めたミルドレッドにディクソン巡査の返しもある種の許しである。
ヒルビリーと呼ばれる不器用で偏向した価値観の人間が成長を見せてくれるのは面食らいました。
この作品は、相手の地位や対面で判断してしまう現代人の性質を盛大に皮肉にした痛烈なものでした。
映画ファンなら次に来る手はこうだ、と思う先入観とも悉く真逆を貫いていく。私達はこうも先入観に捕らわれているんだ目を覚ませ。と個々に問いかけているような完成された脚本に感服しました。
これはもう一度見たくなる。
-追記-
犯人が所長と言われても最初は腑に落ちなかったのですが、いきなり押し寄せて来た容疑者と共謀を図ったのではないかと個人的に推測します。
(容疑者の足が掴めなかったのは軍関係者だった為に事実を揉み消された、所長の話を聞いてバーで法螺を吹いていた場合もありかと)
所長は自ら広告料5000ドルを工面しそのあと突然の自殺、そして手紙を残します。あの看板が建てられた後に行動に移したのだからそれなりの贖罪の意識はあったのでしょう。それに癌でこの先長くないのに加え、もし犯人だと世間に知られ妻と子ども達の未来を潰してしまったら?それこそ彼にとって最大の悪夢です。だからあんなにあっさりと自殺してしまったのだと。
容疑者が完全なる悪だとしても真犯人である所長は正義を掲げるが悪であった。というのがこの作品の真髄でもあるのだと思います。
誰にでも正義と悪がある
ミルドレッドにもディクソン巡査にも所長にも