「よくもまあこんなストーリーを思いついたなぁ」スリー・ビルボード とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
よくもまあこんなストーリーを思いついたなぁ
※注意:映画『フライト』のネタバレも含みます。ご注意ください。
すげぇ映画だな。
ミルドレッドは、言動がとにかくつっけんどんだから、感情移入がしにくい。
しにくいけども、ときおりインサートされる回想シーンを見ると、口は悪いけれども、子供のことを愛していることはよく分かる。
ましてや、娘が亡くなる直前に大喧嘩をして、車を貸す、貸さないで口論になっている。
で、売り言葉に買い言葉で、「歩いて帰る!」「レイプされても知らないからね!」みたいなやり取りまでしているわけだ。
それが不幸なことに現実になってしまった…
それは当然、悔いが残ることだろう。
小男も良かったなぁ。
ミルドレッドに好意を抱いていて、彼女を救うために警察に嘘までつく。
そうまでして叶えたデートで、ミルドレッドのあまりの言いぐさに、さすがに腹をたてる。
なぜ君は、そうやってすべてを敵に回すんだ?
ここにこうやって、君のことを愛している人だっているのに…
怒りとともに感じられる切なさ。
これには、さすがのミルドレッドもこたえたのだろう。
そして、なんといってもディクソン。
中盤までは、本当に最低最悪の男だし、なんならお前が犯人なのでは?と思ってしまうほど。
がしかし、不幸な偶然が重なり、最も尊敬している上司であるウィロビーを亡くす。
これは、彼にとっても強烈な衝撃だったのだろう。
彼の家は母子家庭。
おそらくは、ウィロビーに父親の面影を重ねていたのかもしれない。
だからこそ怒りを覚えたのだろうし、それゆえに広告代理店の社長に暴力を振るったのだろう。
それはもちろん許されないことであり、クビになるのも仕方ない。
でも、そんなディクソンに「お前は刑事の素質がある」と思っていたのは、他ならぬウィロビーだったのだ。
彼が死ぬ間際に残した手紙は、ディクソンの心に深く刺さったのだろう。
だから彼は、自分の命を賭してでも、ミルドレッドの調書を火事から守ったのだ。
彼の心の片隅に残っている、ほんの一欠片の良心が目覚めたのだ。
デンゼル・ワシントン主演の『フライト』を思い出した。
テクニックは超一流だが、アルコール中毒で人としても尊敬できな機長が、裁判の最後の最後で良心に目覚める。
自分の恋人であるフライト・アテンダントが妊娠していたこと。そんな身でありながら、乗客を守るために命を賭けたことが、裁判によって明らかになる。
ここで自分が偽証を重ねたら、自分は本当の意味で「人でなし」になる。
人らしくあるということ。
これまでに重ねた罪は消えることはない。
でも同時に、それを悔い改めるのに早い遅いはない。
もちろん、周囲は簡単に認めてはくれないだろう。
だから、ディクソンは命を賭けたのだ。
大火傷を負うことと引き換えに、調書を守ったのだ。
ウィロビーが守ろうとしたものを、自分も守らねばと。
それが彼にとって生きる意味であり、贖罪にもなるのだ。
ラスト。
あの二人は、はたして殺人を犯したのだろうか。
ひょっとしたら、二人はあのまま、全米を転々と渡り歩き、真犯人を探したのではないだろうか。
いや、それともやはり、あの男の元へ行き、引き金を引いたのかな。
うまいところで映画を終わらせたなぁ。