「傑作。」スリー・ビルボード hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作。
いやー掛け値なしの傑作だった……なんという面白さ…!
「レイプ殺人で娘を失った母親が、捜査が進まないことに業を煮やして警察組織と対立する」というハードでシリアスな設定なのに、辛めのブラックジョークがちりばめられていてとにかく笑える。
いや、笑えない人もいるかも?少なくとも私と両隣はずっと笑ってた。
で、笑った5秒後にはもうたまらなく切ないシーンだったりして、感情がどんどんぐちゃぐちゃになって、ストーリーも全く予想外の方向に転がっていって、最後にはもう自分でも何だか分からないまま震えるほど泣いてた。
前半からはまるで思いもよらない、でもとても自然な、これ以外にないと思えるような素晴らしいラスト。
そこで彼女が笑った時、それまで彼女が一度も笑いも泣きもしていなかったことに初めて気づいた。
この7カ月、彼女が感情を失っていたことに。
「映画の主人公は、観客が感情移入できる存在じゃなきゃいけない」なんて決まりは無いのと同じく、被害者や被害者家族が「被害者らしいふるまい」を強要される筋合いも全くない。
でも世間は被害者を「かわいそう」と思いたくて、「かわいそうであること」を期待してしまう。
彼女は「かわいそうな被害者家族」なんてレッテルを貼られることを全力で拒否し、どんなに嫌われても、危険な目に遭っても、自分の信念に基いて行動する。
彼女の行いは褒められるものでも共感されるものでもない。
でも人は褒められるためや共感されるために生きるわけじゃない。
そして、嫌われても、批判されても、「そうしないと生きていけない」時もある。
…というメインテーマの周辺で
「当人同士の気持ちと、メディアや外野から見える関係性はまるで違う」
「同じ非人道的行為でも、それを行う場所で罪になったりならなかったりする」
などなど、日本に住む我々にも心当たりがあるような示唆的な場面が散りばめられている。
「人間は愚かで愛おしい」なんて生易しいものじゃない。
人間は愚かで、愚かで、愚かで、でもほんの少しはいいところもある、かもしれない。
例えば、嫌いなヤツのコップにもジュースを注いであげるぐらいには。
あ、それと、イヤホンで音楽を聴く行為がいかに危険か、という啓蒙映画でもある!