「音楽が与えてくれる高揚と癒し」永遠のジャンゴ shironさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽が与えてくれる高揚と癒し
てっきり、ジャンゴの一生を描いた映画だと思っていたので、ステファン・グラッペリとの出会いなんかを楽しみにしていましたが…
本作は第二次世界大戦中の二年間のジャンゴを追った物語で、一人のアーティストを通してロマ民族への迫害と、その犠牲に対する鎮魂を描いた素晴らしい作品でした。
見所は、何と言っても演奏シーン!!
初監督作品とは思えない臨場感で、思わず体が動き出し、あたかも映画の中の観客と一緒にその場で聴いているかの錯覚に陥ります。
一曲終わるごとに拍手したくなること請け合い!
ギターとバイオリンを重ねたジプシーミュージックとジャズを融合させたジャンゴの音楽は、時代を越えて現代でも人々の心を惹きつけて離しませんが、
得も言われぬ高揚感と一体感をもたらすジャンゴの音楽をプロパガンダに利用しようと、当時のドイツ軍が近づいてきます。
ユダヤの人々に比べると、語られることの少ないロマ族への迫害ですが、
そもそも領土を持たないロマには戦争という概念自体が無く、戦争はあくまでも自分達とは外の出来事だと思っていたことを初めて知りました。
そんなロマ出身のジャンゴは、たとえ見世物ギタリストと思われていようが、そんな差別はペロリと呑み込み、自由に演奏することで皆んなが喜んでお金が貰えるウィンウィンの関係に満足していたように思います。
しかし、戦争の影はジャンゴだけではなく、ロマ族にも及び
身内のロマ族が移動を禁じられ、何よりも大切な民族の自由を奪われたとき、ジャンゴは初めて自分の置かれている立場に気づき…
陣取り合戦に飽き足らず、国を持たないユダヤの人々と領土を持たないロマの人々を迫害した大戦の卑劣さを知ると同時に、差別と迫害について考えさせられました。
無知が故の差別も許しがたいのもだけど、人の生きる権利を奪う迫害は絶対にあってはならない。
ラストは楽曲に対する驚きと、深い感動に包まれました。(ネタバレ自粛)
《監督のトークショーより》
劇中で使われる音源は「ローゼンバーグ・トリオ」の演奏ですが、
ジャンゴのバックバンドを演じているみなさんも本物のミュージシャンで、もちろんジャンゴの曲はソロのタイミングから何から完璧に入っている方々だそうです。流石!
逆に、ジャンゴを演じたレダ・カティブさんはギター初心者だったとのことで驚き(*⁰▿⁰*)
監督曰く「今、エアギターでジャンゴをやらせたら彼が一番だろうねww」
苦悩や葛藤の中にもユーモアが漂う魅力的なジャンゴでした。
本当のロマ族の方も多数ご出演なさっていて、アドリブたっぷりの現場だったそうですが
「ギャラをあげてくれたらもっとやるよ。」はジャンゴの母親役のロマのばーちゃんが実際に監督に言った一言だそうです(*^ω^*)b
《余談》
ジャズ仲間と行ったデュークエリントン生誕100周年の野外ライブ(当時はフェスとは言わない)でステファン・グラッペリの演奏を生で聴いたのですが、とにかくマイペースなジジイで笑えました。
自分のパートが終わったら、フラッと下手に入ってしまい。しばらく経ったところで、またフラフラと舞台を歩き回っては、おもむろに弾き始める。
この映画を観て、ジャンゴと同じ自由なスピリットを持つ最高の相棒だったことを改めて痛感しました。