「王道には王道たる所以がある」さよならの朝に約束の花をかざろう P CATさんの映画レビュー(感想・評価)
王道には王道たる所以がある
「長命なエルフ(作中ではイオルフという種族ですが)が人の子を拾う」という公式ページのあらすじを見た瞬間、大半の人は結末が想像できるでしょう。
奇想天外などんでん返しがある類の映画ではなく、忠実にそれをなぞっていくものです。
●ストーリー
本作の主題の一つは、マキアとエリアルの関係性の移ろいでしょうか。天涯孤独になった二人が出会った当初、まだ一人と一人の関係から、「母と子」を目指すようになり、徐々にその枠になじんでゆく過程がまず序盤では描かれます。この後の展開が長命な種族を扱う上での醍醐味。母親であるマキアの年恰好は少女のまま変わらず、子であるエリアルはどんどん成長し、やがて母親を追い越します。思春期を迎えたエリアルとマキアの関係性は「母と子」に収まらなくなり、「男と女」という一面を少しだけ覗かせるようになります。「貴女のことを母とは思っていない」と告げるシーンは、お決まりではありますが、見ていても苦しい所ですね。
マキアと決別し独り立ちしたエリアルは軍に入隊し、やがて別の家庭を持ったことが描写され、いよいよクライマックスに突入。
勃発した戦争の中でエリアルはマキアと不意に再開。このシーンでエリアルはマキアのことを「母さん」と呼んでいます。ここで、二人の決別によって数年来「母と子」と「男と女」が入り混じった状態だった関係性が「母と子」に再び戻っています。
時が流れ、老いたエリアルが臨命終時を迎えても、マキアの姿恰好はやはり少女のまま。母が老衰した子を見送るという、人ではありえないシーンで映画は締めくくられます。二人の関係は形を変えつつも続き、エリアルの死後ですら途切れることはありませんでした。
この或る意味「王道」のストーリーを情緒豊かに描いているのは勿論のこと、国同士の覇権争いを絡めつつ、壮大な世界を提示しており、物語全体に窮屈さがないのが凄いところ。
大風呂敷を広げた代償としてところどころ瑕疵がないではないですが、壮大な世界観を提示しつつも、常に主題を前面に押し出して見事に纏め上げた良作だと思います。
説明不足な箇所もちょっとありますが、約100分にこの内容をまとめるならやむなし、といった所です。変にその辺説明して主題が見えにくくなっては本末転倒ですからね。
●演出
この映画には、演出が光るなと思う箇所がたくさんありました。例えば、イオルフと人が過ごす時の違いは、序盤に人と犬という形でも提示されます。犬と人の交わりは幸福に描かれており、遠からぬ未来に別れがあっても、その幸福の価値が薄れることはありません。「長命なイオルフの母が人の子を見送る」というクライマックスを、身近な例で相似的に再現する一幕です。
また、子供(後のエリアル)を抱えたまま死んだ母を見つけ、その指を一本一本引きはがして子供を奪い取るシーン。父母がなく、故郷までなくしたマキアが、誰かの愛の結晶である赤子を簒奪する様は、愛に飢えた様子を強烈に印象付けています。あるいは自分の生きる理由を強烈に欲していたのかもしれません。同時に母が子を思う気持ちの強さをも表しています。このあたりは見事な表現で、物語にぐっと引き込まれました。
●音楽
BGMはいい仕事をしてます。〇〇〇世みたく印象に残りまくる使われ方はしていませんでしたが、物語をよく下支えしています。あとEDの歌声が儚げでよい。
●絵
とにかく綺麗。街並みも自然の景色も、さすがだなぁと嘆息してしまう程。人物もアニメアニメした感じの造形ではないので、拒否反応を起こす人は少なそうな印象でした。
●総評
直情的に感動させにくる映画です。若干感動の押し売り感はあるけれど、いやもうお買い上げですわ(号泣)
イオルフと人が生きる時の違いは、誰しもが経験しうることです。出会いと別れを繰り返し、関係を蓄積してゆくことは生命の営みの一側面であり、そこに種別や寿命の長短は関係ないものだと思います。別れの悲しみを恐れるより、一緒に積み重ねる幸福を大事にしたいなって思いました。あと子供がほしくなりました。