「引き込まれるエネルギー」累 かさね ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
引き込まれるエネルギー
原作未読、予告CMも観ないで事前情報を一切入れずに観ました。いつもはこういった漫画要素が強い映画は観ないのですが、他に気になる映画もなかったので、なんとなく観てしまった。
結果として大満足!
突っ込みどころは色々あるが、主演の2人の演技力によって"入れ替わり"というファンタジーな設定に説得力がある!ここだけでもう合格点ではないでしょうか。
「ガラスの仮面」を思わせるストーリー、今敏の「PERFECT BLUE」、ナタリー・ポートマン主演の「ブラック・スワン」を思わせる展開。
本作の魅力は"舞台"という場で"役"という虚構を演じることに、主人公の累が"ミナ"という虚構を演じることがシンクロし、他人を演じるというスリリングさと役柄を演じ切る累のサクセスストーリーが合わせ鏡のようになっていて目が離せない展開!2時間があっという間に過ぎた。
序盤は累(可哀想な境遇=被害者)目線で話が進むのですが、中盤でミナと立場が逆転してから感情移入の対象が累なのか、ミナなのか、揺さぶられる!
そしてラストでいつのまにか私が観て、結末を知りたがっているのは累でもなくミナでもなく、サロメという役柄を演じ切った舞台上のミナ(累)ということに気付かされる。
浅野忠信のセリフで偽物が本物を超えるという言葉がありましたが、本作のラストはそんな虚構としてしか生きられない自分を完全肯定した累の姿を捉えたようで、美しかった。
監督がとある番組で「醜さと美しさは表裏一体だ」と語っていましたが、まさにそんなイメージをラストシーンを観て思いました。
ミッキー・ローク主演の「レスラー」という映画では、私生活ではダメダメな主人公が「自分はプロレスラーとしてしか生きていけない、不器用な自分はこういう生き方しか出来ないんだ!」というラストがとても醜く美しくかった。本作ラストの累を観てふと思い出してしまった。
とにかく主演の2人が素晴らしい。素晴らしいキャスティング。特に土屋太鳳さんの特技であるダンスを活かした戯曲サロメの劇中劇のシーンは圧巻。
最初のオーディションシーンでは、横山くんと一緒にハッと恋に落ちました。
個人的に浅野忠信演じる役の自宅がサイコパス過ぎて笑いそうになりました。お前が一番やべえよ(笑)
突っ込んみどころとしては、ラストの累の「家の時計を5分遅らせていたわ(キリッ)」っていう分単位の騙し技のリアリティが際ど過ぎるかなぁと思った。
まず気付くだろ!っていうのと、舞台のことは詳しくないが、もし演目が5分以上おしたら一貫の終わりだったんじゃないか?とか、ミナが観に来るとは決まってないのにリセットして置かないのはどうなのか、寝たふりしたミナがそのまま寝落ちして会場に来なかったらこれも一貫の終わりなんじゃないか?とか。ラストのトリックが拍子抜け。詰めが甘い。
しかし!本作はそんなことまでも吹き飛ばす魅力がある!主演2人のエネルギーにはチケット代以上の価値がある。
米国&中国産の巨大サメもいいですが、本作も超オススメです。