劇場公開日 2017年8月1日

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「面白くはない。でも大好きな映画」アメリカン・ヒーロー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5面白くはない。でも大好きな映画

2021年8月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

だいたいレビューに書いてある通り。はっきり言って全然面白くないと思います。特にタイトルにある、ヒーローの大活躍みたいなことを期待している人には全くおすすめできません。

この映画が優れているのは、つねに客観視点でカメラが付いてきていること。セミドキュメンタリータッチで傍観者を貫きながら、主人公の行動に疑問も文句も言わない。ある意味冷たい観察者に徹底していることだ。

そして男の孤独とどうしようもない閉塞感を残酷に描き出す。見ている人を突き放すようなストーリー展開は、まるで男の友達としてじっと寄り添っているような感覚に陥る。男がダメであればあるほど、何かひとこと言わずにはおれなくなり、イライラが募る展開が連続する。お話としてはかなりのガマンが必要だ。

90分に満たない短い映画なのに、一人のダメ男の人生を見せられた気分になる。そして、もし、この映画にサイキックの要素がなかったらと考えてみるとわかりやすい。男は少なくとも自分の能力を人を傷つけることに使っておらず、見世物やいたずらに自分をなぐさめる程度のことしかしない。

VFXの描き方は大友克洋のマンガのようだ。どうしてこんな見せ方を思いつくんだろう。もともと日本発の表現技法なのに、どうして日本でこんな映画が作れないんだろう。さりげなく本当っぽく見せるにとどまり、派手な演出で空を飛んだり、何かを爆破したりするような見せ場はない。国を揺るがすような強大な敵も出てこなければ、逆らえないような陰謀に巻き込まれることもない。あくまでも手の届く範囲で起きる日常の機微をスケッチしているだけ。そんな日常に、それでも銃とドラッグは自分の家族と友人を脅かすようにはびこっている。

これは、自分では変えることのできない運命に、あきらめとささやかな抵抗を繰り返し、落ちるところまで落ちるダメ人間の物語だ。でも男が勝ち取る息子との幸せな時間は、何物にも代えがたい至福の時だ。それを美しく、あまく、爽やかに描き出したラストに、本当に感動した。私はこの映画が大好きになった。

2018.4.3

うそつきカモメ