「散れども再び咲き生きる」散り椿 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
散れども再び咲き生きる
黒澤明の現場で映画作りを叩き込まれた木村大作が時代劇を撮るのは必然だった。
脚本も黒澤に師事し、遺稿『雨あがる』を手掛けた小泉堯史。
黒澤縁の2人がタッグを組んだ時代劇は、オールド・タイプ。
派手な展開や見せ場は無く、スローテンポで、しっかり睡眠を取ってなければ寝落ちしてしまいそうなほど淡々と静か。…いや、ズバリ言うと、少々退屈にも感じてしまった。
だからと言って凡作ではない。
美と和の精神が染み入るヒューマンドラマ時代劇。
名キャメラマン・木村大作による映像美は秀逸。
春日和、夏の陽光、秋の香り、冬の雪原など日本の四季、雪深い開幕シーンや雨降りしきる中のクライマックスの殺陣…いずれもさすが画になる。
ロケーションも素晴らしい。
そのクライマックスの殺陣の、降りしきる雨と噴き出す血しぶきはうっすら『七人の侍』と『椿三十郎』を彷彿。
黒澤時代劇へのオマージュとこだわりが感じられた。
それにしても岡田准一は時代劇がよく合う。今回は何処か、三船敏郎のような佇まいを感じた。
また今回特に殺陣の見事さが絶賛されており、それもその筈、殺陣指導に名手・久世浩と共に岡田准一自身も参加。
ワンカットによる椿の樹の下での西島秀俊との殺陣は緊迫感みなぎる。
感情をグッと内に込めた名演も言うまでもなく。
実力派キャストたちが抑えた好演披露する中、昔ながらの日本人女性像を体現した黒木華がやはり印象残る。
時代劇は特有の題材や設定でなかなか話に入りづらい時もあるが、要約すると、
藩の不正を訴えるも、逆に藩を追われた新兵衛は、病に倒れた妻から託された願いの為、8年ぶりに藩に戻る。
それは、旧友の采女を助けてやって欲しいというものだった…。
訳ありの人物が舞い戻る。
藩としては喉に刺さった骨のような存在。マークし、機会あらば刺客を送る。
旧友ともわだかまりあり。
だが新兵衛はただ、旧友を助けるという亡き妻との約束を果たしたいだけ。
その過程で藩の不正の実態も明らかになっていくが、それ以上に、旧友との確執の解消や妻の願いの真意を知る。
藩の不正は現代にも通じる社会の暗部を浮き彫りにする一方、人と人の繋がりや思いこそ心に響く。
一度は散れども、再び咲き生きる。
地味で好みは分かれる作風だが、これぞ邦画、これぞ時代劇とでも言うべき良質作。
本作も悪くなかったが、木村大作には是非、往年の黒澤作品のようなダイナミックな活劇時代劇も撮って欲しい。