「川の流れに身を任せ」春の夢 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
川の流れに身を任せ
弛み切った時間の中で高級車に向かってヘコヘコと機械のように頭を下げ続ける男。冒頭から既に弛緩と緊張が渾然一体となって豊かなショットを生み出している。ゆったりとした展開と韓国人監督という共通点からついついホン・サンスを引き合いに出したくなるが、彼ほど細部を小綺麗に仕立て上げている感じはない。言うなれば流れる川にそのままカメラを沈めてみたかのようなぶっきらぼうさ。そうした安穏とした雰囲気の中にときおり小石が投げ込まれ、水面に波紋を立てるのだが、波紋はややもすれば鎮まり、また元の川の流れが戻ってくる。
本作についてのレビューが主に「バイブスに乗れたか否か」に論点を置いているのは、本作が流れの映画であるからだと思う。当然河川にもさまざまな種類があるわけで、富士川のような急流もあれば隅田川のような鈍流もある。どれが好みかはさておくとして、川になぞらえられるような豊かな連続性を内包した映画であることはそれだけで素晴らしいことだと俺は思う。そこではできごとが脚本上の抑揚ではなく、河辺の風景を構成するオブジェクトとして機能している。
ただ、それを踏まえれば、最後の最後でモノクロからカラーに移り変わるという演出は悪目立ちしてしまっているんじゃないかと思う。確かにあそこでカラーに切り替わることは物語上の必然性ではあるが、流れの映画であるのならば「物語上の必然性」などに道を譲る必要はない。
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