「文学と、時代と…静かに日韓の過去を浮かび上がらせる」空と風と星の詩人 尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯 テッドさんの映画レビュー(感想・評価)
文学と、時代と…静かに日韓の過去を浮かび上がらせる
詩や文学に関心ある人、あるいは韓国と日本のいきさつについて知るきっかけがほしいという、特に若い方々にぜひ薦めたい、モノクロの美しい映像、基調としては静かな感動のあるすばらしい作品。
1917年、間島(現・中国吉林省延辺の朝鮮族自治区)に生まれた尹東柱(ユン・ドンジュ)は、同年の従兄弟・宋夢奎(ソン・モンギュ)とともに文学を志し、故郷でも、一緒に学んだ京城(現ソウル)の延禧専門学校でも文芸誌を発行するなど行動を共にした。
しかし、夢奎が「文学を通じての社会変革」を志向し、上海に渡って中国国内で活動する独立運動諸党派を訪ね歩くなど政治にのめり込むことに東柱は批判的だったと描かれる。
やがて二人は創氏改名を受け入れ、1942年から夢奎は京都帝大、東柱は立教大~同志社大と留学するが、朝鮮人も招集されるようになる機会を利用して軍内に独立運動を組織することを計画した容疑により治安維持法違反で逮捕され、懲役二年の判決を受け、おそらくは人体実験の注射により終戦=祖国の光復(独立回復)目前に福岡刑務所で獄死する。
高校生や、大学生に、あまり予備知識なく見てもらい、どうして韓国映画なのにセリフの大半が日本語なのかといったことからはじめて、韓国側から見た日本との100年の歴史を向こう側から見たリアリティーにおいて感じてもらう良い教材であると思う。
それにしても、この映画、韓国映画なのに韓国での上映では大半に韓国語字幕が必要だったはずだ。主演の二人はそれぞれ素晴らしいが、俳優たちは日本語という点でも頑張った。また、グローバルな視点を持ち、政府の「共栄圏」論の虚偽に批判を隠さない立教大の恩師が登場していることで、一面的な反日映画にはなっていない。ソウルで、また東京で東柱とふれあう梨花や立教の女学生を演じる若い女優たちも魅力的。