「身体性を駆使した表現が、観客を優しい世界へといざなう」ロスト・イン・パリ ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
身体性を駆使した表現が、観客を優しい世界へといざなう
「アイスバーグ!」「ルンバ!」で道化師カップルの“アベル&ゴードン”にとことん魅了されたことのある観客にとっては、これはあまりに嬉しい喜びの再来となるはず。これはわかる人にしかわからない、とことん穏やかで唯一無二の時間の共有である。好き嫌いは分かれるだろうが、こんな映画、彼らにしか撮ることはできない。
パントマイムの身体性を駆使して感情を彩る本作は、たとえその舞台がロマンス映画の定番中の定番とも言える“パリの街並み”だったとしても、そこに発露する心情、おかしみ、温かみは従来のものと別格。そして今年89歳で亡くなった女優エマニュエル・リヴァが生前の姿を遺している意味でも見逃せない。彼女の仕草。笑顔。老紳士と魅せるささやかなダンスのなんと可愛らしいことか。本作を見つめていると、近年、哀しく凄惨な事件の多かったこの街に、真の姿、真の魅力が戻ってきたような気がする。それもまた嬉しくてならない。
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