ジャコメッティ 最後の肖像のレビュー・感想・評価
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芸術家は
1964年、パリ。ジャコメッティはアメリカ人青年のジェームズ・ロードに肖像画のモデルを依頼する。ロードはジャコメッティの頼みを喜んで引き受けるが、すぐに終わると思われた肖像画の制作作業は、ジャコメッティの苦悩により、終わりが見えなくなっていた。その中で、ロードはジャコメッティのさまざまな意外な顔を知ることとなる。ハチャメチャな芸術家に作品を完成させるために兄を使いうまく終わらせ、作品はNYに送られる。この肖像画は彼の最後の肖像画となる。ロードは最後まで彼と交流を持った。芸術家のハチャメチャさが面白かった。また、終わらない作品をどのように終わらせるかも最後までヤキモキさせられて引き込まれた。
黄金の日々!!
毒のある無駄口は活動的なジャコメッティに似合っていて、アトリエも雰囲気抜群でとても幸せな気持ちになりました。お爺ちゃんですが、創作に没頭し女性を愛でる毎日は本当に充実しています。喫茶店で腹ごしらえをしてアトリエに戻るのも楽しいです。ポン引きに半年分をポーンと前払いする様は生涯現役で男らしかったです。最後の手紙の言葉も彼らしいです。90分というのも丁度良い長さで、観終わった後に黄金の日々だったと気付く、シンプルで美しい映画でした。ジャンルは違いますが、クローネンバーグの「イースタン・プロミス」のように、ある部分を切り取って全部を表現する知的な試みの映画だと思います。
”歩く男”を創造した、”我が道を行く男”
アルベルト・ジャコメッティという芸術家は歩く男に代表される異様に細長い銅像を創り上げる彫像家だと思っていたが、これは何度も何度も肖像画を描き続ける男とそれに忍耐深く付き合う男の物語であった。ジェフリー・ラッシュ アーミー・ハマー(彫像の様な顔) クレマンス・ポエジーの絡みが良く、ある意味喜劇かも知れない。佳品である。俳優陣の演技に興味のある方は一見の価値はあると思います。
肖像画とは決して完成しないもの
ジャコメッティと聞いても、これまで個人的には線の細い彫刻像という認識であった。むしろ恥ずかしながら、ノートの片隅に落書きしていたパラパラ漫画の棒人間を思い出すという程度(笑)。
昨年、国立新美術館でジャコメッティ展が開催されていたが、母国スイスでは紙幣の肖像画になるほどの芸術家であり、映画では彫刻だけでなく絵画や版画も手掛けていたことを知ることができる。
若き美術評論家ジェームズ・ロードが、ジャコメッティと親交を深めていくうちに、肖像画のモデルを頼まれる。当初は、2日間で仕上げる約束で快諾したモデルであったが、1日1日と延びていく。本作はその制作過程を書いた回顧録「最後の肖像」を基にした映画である。ジェームズが見た、晩年のジャコメッティの創作現場が描かれている。
ジャコメッティは、"肖像画とは決して完成しないものだ"と言ったり、自身の発表した過去作は"すべて未完成だ"と言ってのける。せっかく完成しかけた肖像画を塗りつぶして、やり直しを繰り返す。映画は、真実の姿をとらえようとする、ジャコメッティという芸術家の目から見える対象物の印象を映像化しようと試みる。
映画の冒頭から、"あれっ、モノクロ?"と思うほどの、無彩色ベースの映像に、人物の肌色だけがパートカラー(部分彩色)的に、温かく強調されている。アトリエでは製作途中の作品や道具はもちろん、壁や建物などの背景のさえも無彩色に自然光で撮影されている。
撮影監督は、ダニー・コーエン。トム・フーバー監督とのタッグが多く、「英国王のスピーチ」(2011)、「レ・ミゼラブル」(2012)、「リリーのすべて」(2016)などでカメラを担当している。
無彩色映像(白・黒・グレー)は、突然、酒場シーンや娼婦のカロリーヌが出てくると鮮やかになる。これはスタンリー・トゥッチ監督の意図かもしれないが、作品の意図するテーマと連動していると思われる。多彩色なものは、変化し続け、上っ面なものが表現され、無彩色は不変で本質的なモノを捉えているように見える。
一方で、ジャコメッティを演じているジェフリー・ラッシュの役作りは凄まじく、外見も喋りも本人に近づけている。ジェフリーといえば「シャイン」(1997)でアカデミー賞主演男優賞を受賞しているが、それよち「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのバルボッサ役といったほうがお馴染みかもしれない。
劇中楽曲は、当時のものが使われている。奇しくも「Jazz à gogo」という曲は、1960年代に「夢見るシャンソン人形」がヒットした仏歌手フランス・ギャルが歌ったもので、本日(1月7日)に亡くなった。享年70歳。ご冥福をお祈りいたします。
ところで、昨年(2017年)から芸術家の伝記映画のラッシュが続いている。エゴン・シーレから始めり、セザンヌ、ロダン、ゴッホ、ジャコメッティ・・・。そして今月公開のゴーギャンへと続いていく。
(2018/1/7 /TOHOシネマズシャンテ/シネスコ/字幕:稲田嵯裕里)
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