「魔法がかからなかった」ジャコメッティ 最後の肖像 シンさんの映画レビュー(感想・評価)
魔法がかからなかった
何を鑑賞者に伝えようとしたのだろうか。 かつて、故き良き一時代に存在したジャコメッティという一人の芸術家(私はよく知りませんでした)。常軌を逸した「完成」への執着心、狂気。それを一作品 ・遺作の創作過程に収斂させて物語り、提示しようとしたのだと思うのだが。
絶望という沼地にしか存在しない、蜃気楼のように決してたどり着く事の無い「完成」という安息の地。ジャコメッティの全宇宙である小さな空間アトリエでの果ての無い旅路。「そこ」への道標は彼だけに宿る彼だけの孤独な何かなのだろう。
ジャコメッティのという才能と、家族、モデル、愛人の娼婦。そして小さなアトリエ。 しかし残念ながらこの小さな小箱のなかで映画の魔法はかからなかった。そもそも制作者がそれを意図していたかか否かは不明だがジャコメッティの創作への苦悩、執着、哲学が感覚として届かない。鑑賞者の私の身体に滲んで来ない。ジェフリー・ラッシュが演ずるジャコメッティのセリフを通じて説明的にしか伝えられていない。
映画の魔法はかからなかった。
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