「バブルも歴史になりました」リンキング・ラブ バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
バブルも歴史になりました
舞台となっている1991年は僕の大学時代ドンピシャである。地方の貧乏学生だったからバブルの浮かれた世相なんてテレビの中の出来事だったが、それでも映画に出てくる様々な流行や社会風俗は「あー、あったあった」と思い出すものばかりだし、あの頃を知る人にはわかるという小ネタも多く、なんとも懐かしい。それらを戯画化しすぎない絶妙なさじ加減で散りばめていく手腕はさすが金子修介監督。そんな金子監督が1991年に撮ったのが『就職戦線異状なし』で、これも劇中に出てくる。もうあの時代もそんな昔の話になったんだなぁ……。歴史の中の1ページになったってことか。
また金子監督はアイドル好きとしても知られ、アイドル史についての著書まで出しているほどだが、この映画もまた一種のアイドル論になっていて、アイドル〈についての〉映画としても非常に優れたものになっている(このあたり男性アイドルを扱った金子監督の『卒業旅行 ニホンから来ました』もちょっと連想させた)。劇中のASG16がAKB48の曲を歌い踊るところはもうほとんどMV風。「エブリデイ、カチューシャ」「フライングゲット」「恋するフォーチュンクッキー」といった有名曲の他に、「制服が邪魔をする」というマニアックな曲もやってたが、これがまた良い曲だ(AKBがブレイクする前の初期の曲で、金子監督が気に入って採用したらしい)。それにしても“アイドル冬の時代”ってのも今や懐かしいフレーズ。あの頃はまさかアイドル人気が再び大ブレイクする時代が来ようとは思ってもみなかった。未来のことなんてほんとわからんもんです。
主演は当時AKB48のメンバーだった田野優花。AKBの中では目立たないというか、いぶし銀みたいなメンバーだったようだが、コメディエンヌとしての才能をいかんなく発揮して好演している。若き日の母親役の石橋杏奈も魅力的だし(劇中でラムちゃんのコスプレまでしてくれる)、ASG16メンバーとなる女子大生たちを演じた若手女優たちのがんばりも素晴らしい。女の子を可愛く撮る金子監督だけあって、とにかくみんな可愛い。全員がAKBの曲を完コピしてるのもびっくり(田野ちゃんは当然だけど)。そんなアイドル映画でありながら、王道のタイムスリップ・エンターテイメント映画としても楽しめるところにこの映画の魅力があり、まさに笑えて泣ける映画だった。