「死上げはおじいさん。 こんなん絶対コメディ映画だと思うじゃん…。」おじいちゃんはデブゴン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
死上げはおじいさん。 こんなん絶対コメディ映画だと思うじゃん…。
軽度認知症を煩う元警衛局員の老人ディンが、孫同然の少女チュンファを救う為、中国/ロシアの両マフィアに戦いを挑むカンフー・アクション。
香港映画界の生ける伝説、俺たちのサモ・ハン・キンポーが監督/主演を務める。アクション監督として数多くのカンフー映画に携わっているサモ・ハンだが、メガホンを取るのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ 天地風雲』(1997)以来、実に19年ぶり(のはず。サモ・ハンのフィルモグラフィーは膨大なので抜けがあるかも)。
それもあってか、本作にはアンディ・ラウをはじめ、ユン・ピョウ、ディーン・セキ(『酔拳』(1978)の嫌味な師範代)、ツイ・ハーク(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ(1991〜1997)の監督)、ユン・ワー(ブルース・リーのスタンドダブル)など、サモ・ハンの盟友であるレジェンドたちが集結。後はジャッキー・チェンさえ来てくれればツモ!数え役満!!てな具合のオールスター映画である。
舞台となるのは中国とロシアの国境にある「綏鎮」という地方都市。アンディ・ラウ演じるダメ親父による宝石の持ち逃げがチャイニーズマフィアとロシアンマフィアとの抗争に発展。そこに首を突っ込んできたボケジジイが、実は功夫の達人で…。
と、型だけ見ればはっきりとした「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした」映画。『ランボー ラスト・ブラッド』(2019)と同じ「ジジイ無双」系映画でもあります。
この型で、しかも主役がサモ・ハンとくればそりゃもう期待しちゃうのは抱腹絶倒のアクション・コメディ。当然ギャグ多めの明るく楽しいカンフー映画でしょ♪と誰もが思った事だろうが、意外にも作品のトーンは暗め。まず孫娘の失踪により家族から絶縁された老人、という設定が暗い…。中国で児童誘拐ネタは洒落にならん。
ディンの認知症もギャグタッチではなく、なかなかに解像度が高い。虚な表情や覚束ない足取りなど、本当にサモ・ハンヤバいんじゃ無いかと勘違いしてしまう程に真に迫っている。この手のジャンル映画でここまでリアルだと素直に楽しめないんですが…。
とはいえ、「ナメてた相手が殺人マシン」系かつ「ジジイ無双」系映画が暗いというのは別に悪い事ではない。『ランボー ラスト・ブラッド』もめっちゃ暗い映画だけど面白かったし。
陰陰滅滅とした展開が続いて続いて…。最後の最後でジジイの怒りが大爆発!このカタルシスこそが「ナメ殺ジジイ」映画の醍醐味である。
本作はこの最後の“怒りの鉄拳“が弱い。後期高齢者のサモ・ハンにそこまで求めるのは酷だと理解はしているのだが、チャカチャカしたカット割りで肝心のカンフーを誤魔化してしまうというのはいかがなものか。
チャイニーズマフィアのボスとの決着も、そこはジャンル映画なんだからアチョーでやっつけて欲しい。満身創痍の爺さんが足引っ張りながら必死で悪党を追いかける姿を見た日にゃ、膨れ上がったカタルシスも萎んでしまうわな。
このシリアスさは、ただの動けるデブじゃない事を見せてやる!というサモ・ハンの意地だったのかも知れない。しかし、やはり我々カンフー映画ファンが見たいのは陽気で楽しいサモ・ハンの姿。ファンが望んでいる物と本人が作りたい物の間に齟齬が生まれている様な気はします。まぁこういうのも飲み込めるのが本当のファンだとも言えるんですけどね。
…にしても、「デブゴン」って普通に悪口ですよね😅サモ・ハン本人はこの愛称の事を知っているのかな?