「議論を恐れない大胆さと、鋭利でセクシーなヒロイン像。」エル ELLE 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
議論を恐れない大胆さと、鋭利でセクシーなヒロイン像。
久しぶりにヒリヒリとした痛みを伴いながら、かつ体が思わず火照ってくるようなそんなセンシュアルで刺激的な作品を観たなぁと思った。そして私はこういう映画が好きだったと改めて思い出すと同時に、この映画のヒロインのことをとても好きだと感じた。
かねてより、私は「説明のつかない女の映画」が好きだ。つまり、旧時代的な「女」という概念や、世間一般でノーマルとされている女性像では説明しきれない女を描いた物語に、いつも感動し、共感してしまう。私にとってミシェルはまさしくそういう人物。彼女の身に起こることは、女として生まれた者が受ける屈辱の最たるもの。だからと言って彼女は女という固着観念の中に閉じ込められるような真似はしない。生々しいまでに女として生き、女であることを肯定し、けれども女であるという柵(それだけでなく全般的なステレオタイプも含め)を次々に破壊して生きているようなその姿が爽快かつとてもセクシーで、私は彼女もまた女性の中の英雄だと感じた。
私は、女性が男性化することを望まないし、それを男女の平等だとも思いたくない。だからこそ「ワンダー・ウーマン」のような英雄像よりも、この作品のミシェルのような女性の方が、私にとってはより英雄的に思った。同じ女性でさえ、彼女に共感する人は少ないかもしれないけれど、私は彼女のことをとても好きだと思った。
(この感想を書きながら、あまりにも「女」「女」と連呼していて、自分でそれもいかがなものか?と思っているが・・・)
題材はとてもデリケートな要素が大きい。しかし物語も演出も、そしてフランスの大女優イザベル・ユペールの演技も、すべてがエッジィで大胆だし、題材に対してまったく恐れをなしていないどころか、むしろ更に挑発的なまでに物語を鋭く研いでいく。彼女を襲ったレイプや、性的な嫌がらせなども恐ろしいのに違いないが、この映画の本当のスリルはミシェルの心理描写にある。彼女が次にとる行動、話す言葉、考えること、思うこと、そういったものの積み重ねこそがスリリング。そしてそのスリルがとても煽情的でセクシー。そしてそれを体言するイザベル・ユペールがひたすら格好良くて、惚れ惚れした。
「ピアニスト」での名演を代表作に持つフランスの女優は、60歳を過ぎてなお攻めの姿勢を崩さない。誰にも説明のつかない女ミシェルを、誰よりも理解してその矛盾だらけの情念が滾る様子を魅せつけてくる。こういう役柄を演じるのに、ユペール以上の適任者は居なかっただろうと思うし、この役を演じたのがユペールで良かったと心から思った。