「持て余すほどの切り札を使い切った、ワイスピきっての良作」ワイルド・スピード ICE BREAK カガチさんの映画レビュー(感想・評価)
持て余すほどの切り札を使い切った、ワイスピきっての良作
シリーズを通してのラスボス「サイファー」が登場し、主役であったはずのドムがファミリーに背を向ける。
全く同じと言うのは無いが、どこかで聞いた設定の繰り返し。
それが悪いとは言わないし、いい意味でもシリーズ内で異色の作品となった。
まず「ドムが裏切る」だが、これに関してはメタ的な意味を込めても、絶対本心じゃないのは明らかだし、既に前々作で「レティの復活」と共に描いた既出演出。
意外性もクソも無い設定だが、まぁ主役が敵側に着き、レギュラー陣が悪戦苦闘する様はある意味意外で面白かったので、結果的に良かった。
次に
1つ目の問題点として、この作品最大の悪手「デッカードの仲間入り」だ。
これは個人的主観もあるが、前作でステイサムがデッカードとして出演した時点でこうなることは見えていた。しかし世間はそれをよしとしないし、ドムのファミリーの概念からもかけ離れている。
作中でもレティやテズが「お前は仲間じゃない」と悪態をついていたが、その割には背中を預けて戦闘していたし、最終的にドムはデッカードを信頼して、「リトルブライアン」を救出する作戦を任せる。このリトルブライアン救出作戦の演出は大好きだし、ステイサムの無双シーンが見れて個人的には満足だが、如何せんこのデッカードは元ファミリーの「ハン」を殺している。
デッカード本人も、償いどうのこうのと言っていたが、正直この罪はそう簡単に償えない。
自分としては、これの次回作で「実はデッカードはハンを殺しておらず、水面下で行動を共にしていた」と言う大どんでん返しが待っているものだと勝手に期待して納得していたが、全然そんな事も無かったし。
そもそもデッカードほどのプロが、殺した"と思っていたが実は逃げていた"なんて事態を見逃すはずもないし、あれだけの時を共に過ごしたドムが、日本からハンの遺体を輸送するときに"本人かどうか見分けがつかない"はずも無いし、この件に関しては色々と設定や脚本に無理があった気がする。
何の説得力も無い個人的意見としては、デッカードはハンを殺しておらず、実はデッカードとドムは東京でコンタクトを取っており、以降の敵「モーゼ」ひいては「サイファー」を倒すために敵同士を演出していた。ハンはドムと共に東京から戻ったが、サイファー(当時は登場すらしていないが…)の件が片付くまで身を顰めることにした。
これならすべての辻褄があうし、無理も無い。まぁあくまで個人的妄想だが。
最後に
2つ目の問題点として「不要人員の退場」だ。
これを聞いてピンときた方もいるかもしれないが、本作で退場した唯一のレギュラー陣「エレナ」だ。
本作のキーキャラクターでもありながら、シリーズを通して不要と判断された彼女は、何の見せ場もないまま敵の手によって殺されてしまう。
初めて見た時には、身近なキャラクターの死…と言う衝撃的な内容から何も思わなかったが、後々考えてみるととんでもなく酷い退場方法だ。
どうせなら「ジゼル」の様に見せ場を作った英雄的退場でも良かったのに、レティに子供を産ませない為と、ドムの復讐心作りの為に、何の見せ場も無いまま無残にも殺されてしまう。
だが、そんな悪手も帳消しにしてくれる最大の見どころが、「金を使ったカーチェイス」「見ごたえの良い復讐」だ。
まず「金を使ったカーチェイス」だが、これは物語中盤のいわゆる「ゾンビタイム」や、これでもかと言うほど爆薬を使いまくった終盤の氷上チェイス。
これらのシーンには目を奪われた。特にパーキングからの雪崩シーンは、劇場で唖然としてしまったのを覚えている。
次に「見ごたえの良い復讐」だが、本作には3パターンの敵が存在し、殺されるべき敵が明確化している。
1パターン目は「ドム」。しかし彼は、敵として振舞っていただけであって敵では無い為度論外。
2パターン目は「サイファー」。これは公式も見解している通り”シリーズを通してのラスボス”なので、本作で死ぬことは無い。
そして3パターン目、エレナを殺した仇の「ローズ」だ。
彼はラスボスでも無いのに、作中通して無駄にドムを煽り散らかし、ドムはおろか観客のヘイト値を買いまくり、最終的に見事な殺されっぷりを披露する。
今までのワイスピに登場した敵は、比較的呆気ない最後が多かっただけに、コイツの死は見応えがあって良かった。
これだけシリーズが長く続くと、スポンサーや主演陣、果てはファンまでもの意見が入り混じり、監督が思った作品に成り立たないのも事実だし、続かせる努力が必要なのも分かるが、個人的には(言い方は悪いが)キリがよかった前作で締めていた方が、後々の結果を考えると良かったのかもしれない。本作は間違いなくシリーズきっての良作だし、見ごたえ抜群で何度見ても面白いが、続ければ続ける程自分の首を絞める結果になる。
本作で使い切ってしまった二人の名優「ドウェイン・ジョンソン」と「ジェイソン・ステイサム」がその良い例で、彼らは本作を最後にシリーズを脱退※している。
これだけ名の知れた名優が抜けてしまうのは、シリーズにとっての大きな痛手であることは間違いないし、抜けた彼らをカバーできる魅力がこのシリーズにあるとは到底思えない。
難しい判断だろうが、これ以上被害が大きくならない事を心から願う。
(※ステイサムは次回作にもノンクレジット出演している。)
個人的感想
シリーズで1、2を争うほど好きな作品。
1の様ないい意味で安っぽい感じも良かったが、金のかかったカーチェイスものも好きなので、どちらも捨てがたい。しかし長期シリーズに見て取れるネタ切れ感や方針転換時の矛盾が見て取れるので、シリーズ作品としては少し厳しいかな。