「作品を世に届ける人たちの矜持の融合」ブルーハーツが聴こえる Loser Dogさんの映画レビュー(感想・評価)
作品を世に届ける人たちの矜持の融合
4月9日、新宿バルト9にて観てきました。ブルーハーツが大好きで、上映前はどんな映画なのか最高潮の期待感を持っていた反面、曲の持つイメージやエネルギーが作品を通して伝わってくるのか正直不安でした。
観終わった後の感想は、
不安は全くの杞憂。ガン上がりしていたハードルを軽々越えるどころか宇宙にブッ飛んでいきました。正直映画を観てこんな気持ちになったのははじめてでした。
伝説とも呼ばれるブルーハーツの楽曲のイメージを大切にしすぎる余り日和っている作品は一つもなく、良い意味で全ての作品が振り切っていました。その根底には確実にブルーハーツの伝える前向きなメッセージが込められており、はじめてブルーハーツの曲を聴いたときの衝撃が蘇ってきたかのようでした。
[ハンマー]
テンポの良い軽快なギャグによって登場人物の感情の機微が絶妙に表現されていて、笑えるんだけど「そうだよなぁ」と共感する部分もある、観ていて気持ちの良い1曲目に相応しい作品と思いました。簡単に割り切れない気持ちや悩みを歌というハンマーでブチ壊す。改めて歌の持つエネルギーを感じることのできる作品です。
[人にやさしく]
ある未来、囚人を刑務所惑星へ輸送する宇宙船が隕石に衝突。辛うじて生き残った僅かな乗組員たちが繰り広げるヒューマンドラマ。
正直設定がブッ飛んでて、短い作中で細かに説明されることはないので読み取ってついていくのが大変な作品ではありました笑。
注目すべきポイントは、時間的猶予はあるものの、確実な死が迫るとき、人間はどういった行動を取るのか。そして、その中で垣間見える「人間が持つ、世界を変えることが出来るかもしれない性質」とは何か、それが解ったとき、表題曲の聴こえ方も違って来るかもしれません。主演の市原隼人さんらが演じるアクションシーンも見応えたっぷりです。
[ラブレター]
予告編を観たときは王道の青春映画かと思ったのですが、実際は「人にやさしく」に負けず劣らずブッ飛んでます笑。監督の作品のファンなら納得の展開だったかもしれませんが…笑。会場で最も笑いが起き、尚且つ、エンドロールで最もすすり泣く音が聴こえたという不思議な作品です笑。反則級の笑って泣ける作品です。
「少年の詩」
舞台は1987年、鍵っ子少年が主人公。
特筆すべきはその時代の空気感を表現するディテールの細かさ。当時のポスターやCMが作中で垣間見える、そのこだわりには脱帽です。作中でてくる少年少女たちの実在感は、撮りかたが上手いのか子どもたちの演技がいいのか、「ああ、自分もこんな頃あったなぁ」と思い出させてくれます。そして、子役の内川蓮生くんが魅せる市原隼人さん顔負けのアクションが、曲と共に最高のカタルシスをもたらしてくれます。清々しさを感じながら少しほっこりできる作品です。
[ジョウネツノバラ]
作中一切セリフが出て来ず、大切な人を失いつつもそれにすがり続ける男の感情を、演技、光の表現、音、風景などから読み取っていくという、映画でしか表現できない、映像作品の極致とも言うべき作品です。その分非常に多様な解釈ができる作品でもあると思います。(タイトルが情熱の薔薇ではなくカタカナなのも解釈の余地を拡げるためかもしれません。)もし誰かと一緒に観に行くときはそれぞれどんな観方をしたか、話してみると新しい発見があるかもしれません。世界一美しい死体を演じきった水原希子さんも必見です。
[1001のバイオリン]
豊川悦司さん演じる元福島原発作業員の男とその家族を、リアルを徹底的に追及して撮ったドキュメンタリー的作品です。リアルを撮るためのこだわりは、しっかり現地で撮影するところからも感じられます。(車から見えるお店の看板に「双葉店」の字が読み取れたのでおそらく福島県双葉町などで撮影されたのだと思います。)知り合いに、避難区域に住んでいて現在は故郷から離れて暮らしている人がいるのですが、作中描かれるような葛藤に悩んだりしていて、今も多くの人が葛藤しているのだと思います。震災から数年立つ現在、この作品の持つ意味はとても大きいものだと感じます。この作品に限らずですが、ブルーハーツの曲が持つ「理不尽な境遇、不条理な世界でも自分らしく前を向いて生きていく」という強いメッセージが心を貫きます。
作品全体としては、作品が曲のPVになってしまうのではなく、曲のための映画でありながら映画のための曲となっており、映画や音楽など、世に作品を届ける人たちの矜持が融合するとこんなに素晴らしいものができるのかと、ただ感嘆するばかりでした。
ブルーハーツは好きだけど観ることを躊躇ってしまっている人もいると思いますが、6曲6作品、必ず心に残る作品があると思うので、是非劇場で見届けて欲しいと思います。
ブルーハーツを聴いたことがなくてもこの映画がきっかけで好きになれる、そんな映画でもあると思います。