「私たちはどこで道を誤ってしまったのか。」わたしは、ダニエル・ブレイク h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
私たちはどこで道を誤ってしまったのか。
冒頭の事務的かつ無機的な質問者の対応からして、ダニエルに対する配慮の心は微塵もない。
申請者に絶望を感じさせるホラーのよう。
弱者をケアするのではなく、できるだけ申請者を排除することが彼らの目的だ。
あらゆる公的サービスが、市場原理によるコスト削減とサービス向上を目的に外部委託され、実際はその目的とは解離し提供価格は高騰するかサービス内容は大きく劣化していく。
デジタル化は市民のサービス向上どころか、障がい者や高齢者など社会的弱者の排除に機能する。高齢者でも利用できるUXUIの改善と、ほんの少しでもまわりがサポートしてあげる心の余裕があれば何かが変わるはずなのに。
新自由主義的システムに塗れた国家は、無関心、無配慮などケアを顧みないことに支配された世界だ。
経済的強者は(「怠け者の経済負担をなぜやらなくてはいけないのか」と)弱者救済を渋り、弱者へのケアを弱者でしか担えない仕組みに押し込んでいる。
マイノリティの基本的人権どころか、尊厳や最低限の生活権も奪われる社会。
なぜこんな社会になってしまったのだろうか。あまりにも過酷すぎて胸が苦しくなり直視できない。しかし日本でもコロナ禍の現実はその深刻さに拍車をかけている。
最後のケイティの朗読から、まだ完全に火が消えないうちにやるべきことはあると微かな希望を感じさせてくれる。
コメントする