「市民を追い詰める役人」わたしは、ダニエル・ブレイク everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
市民を追い詰める役人
主人公Danielの正直な堅物ぶりは「幸せなひとりぼっち」のOveを若干思い出させましたが、Danielの場合、困っているシングルマザーの家庭を自ら進んで助けます。音楽鑑賞はラジカセとカセットテープ、パソコンはさっぱりだけれど、大工歴40年のアナログおじさん。愛する妻を働きながら介護して看取り、真っ当に生きている善良な市民そのものです。彼が心臓発作で仕事が出来なくなり、支給申請のため役所を訪れます。
真面目に税金を納めてきた市民を救えない行政とは何なのか。思考が麻痺してプロトコールに沿うことしか出来ず、全く融通の効かないお役所仕事、助けを求める市民をたらい回し拒絶するためにいるような役人達。市民が反論しようものなら、まるで犯罪者扱い。Danielがやかましく注意する生ゴミや犬のフンの始末といった守るべき近隣マナーとは、全く趣旨の異なる規則でがんじがらめです。
問題は救うべき人が多すぎること、そして援助の程度を客観的にケースバイケースで判断するには時間がかかること。不正を企てる市民が紛れていることも事実であり、時に厳しい目線が向けられてしまい、助けるべき人に行き届かないこと。
医師の意見書や診断書で一発解決とはいかないようで、日本より厳しいと思いました。
非情な役人達の態度に、怒りを通り越して呆れるばかりですが、行政が手を差し伸べるべきことを、隣人や友人達で助け合い、補い合っている所に救いがあります。
空腹で思わず缶を開けて素手で食べてしまったり、やむなく万引きをしたり、八方塞がりで堕ちていくシングルマザーの姿に涙が堪えられませんでした。一方でDanielは最期まで自分らしく生きて尊厳を保ちました。決して他人事ではありません。公務員は勿論、多くの人に観てもらいたいです。。。
"When you lose your self-respect, you're done for."