「語り口は静かだが、強い怒り」わたしは、ダニエル・ブレイク よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
語り口は静かだが、強い怒り
役所というところには、法の執行者であることが権力を持つことだと、大きな勘違いをしている者がときどき見受けられる。自分が血税に雇われた身であり、法で定められたことを誠実に実行することが自分の仕事であって、そこには自分の恣意など一切介在させてはならないという、民主国家では自明のことを忘れているものがいる。
映画の冒頭には「医療専門家」なる女性による質問と脅しにもとれる言葉が出てくる。しかも、この「医療専門家」が国から委託された民間企業の人間だというのだから噴飯ものである。
主人公のダンは求職手当と支援手当(日本でいえば雇用保険と生活保護にあたるのだろう)のどちらの支給要件からも漏れてしまっている。おまけにこうした福祉を受けるための手続きに必要なPCを扱う経験もなく、書類の作成もままならない。
働いているときは真面目に納税してきた彼を、病気で働けなくなったときに救い上げることのない福祉制度の矛盾は、議会が解決するかも知れない。しかし、この矛盾を矛盾とも思わない人々は、そう簡単にはこの社会から消えていなくなることはない。
特にハッとするようなカメラワークや編集のテクニックがあるわけではない。しかし、全編を通じてふつふつと湧きあがる憤りが心を揺さぶり続ける。
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