「この人が撮ると、戦争というより戦闘なんだな」ハクソー・リッジ ハルさんの映画レビュー(感想・評価)
この人が撮ると、戦争というより戦闘なんだな
前半で訓練が描かれて後半で実戦が描かれるという構成は『フルメタルジャケット』のそれと重なっている。そしてやはり微笑んでいる兵隊が足手まといになり連帯責任を負わされた他の隊員はリンチをするというのも同じ。ただし本編の末尾に見られたデズモンド・ドス本人の映像を観てわかるのだが、その本人が特徴的な笑みをたたえているのでアンドリューはそれを演技に反映させていたのだろう。そしてこちらの微笑み野郎はやせっぽちで銃を持たない。
それはさておき、本作が沖縄戦を描いた大作ということで戦闘シーンなど当時の描写がどうなっているのかは気になっていた。しかしそれは前半のデズモンドの成長と葛藤、愛する存在、そして貫かれた信念という過程を見るにつけ「そこじゃない」ことに気付かされる。【ヒューゴ・ウィービング】の熱演も寄与していたと思うし、何より良いなと思ったのが、これがただ信仰心の話ではなく軍規違反とされた彼を守ったのが自国の憲法であったということだ。翻って当時の日本では‥と思わずにはいられない。彼を窮地から救った父親にしても葛藤があり、結果として息子を戦争に送り出すことに手助けをしたことにもなる。
前半でやや詰め込み気味に描かれるこれらを前提とすることで後に繰り広げられる戦闘とデズモンドの行為にそれなりに意味(意義)を持たせている。ちなみに鬼教官としてコメディ畑のヴィンス・ヴォーンを起用しているのは『バンド・オブ・ブラザーズ』でのデヴィッド・シュワイマーぽいなと思ったり。
戦闘シーンでは近接した状況で何があったかを極力CGIを排して写しているが、装備の圧倒的な差がありながら非合理的な突撃を繰り返す日本軍はあたかもアンデッドのようだった。しかし最終的には米軍もまた同様の突撃(スローモーションの多用は笑うしかなかったが)を見せるということで総じてイーブンに描かれている印象を受けた。日本人キャストを多数起用していて、Yoji Tatsuta演じる"Japanese General"の切腹&介錯シーンなど含めて【メル・ギブソン】ならではのバランス感覚だろう。衛生兵の赤十字標章が標的になるということも理由として「白地が目立つから」とされていた。
デズモンドが神に問いかけるシーンではやはり神は沈黙している。代わりに聞こえてきたのは仲間の助けを求める声ということで彼はそれを答えと思うことにしていた。信仰のことを直截的に考えさせるところは思ったよりも少なかったと思う。戦争行為と信仰の不整合を素直に捉えているのだろう。二回目の戦闘の前には「祈り待ち」をしていたが、彼以外の兵士はただ待っている。「彼の戦いとは救うことだった」のだ。それこそが稀有であり、なぜそれが成されたかを考えさせられた。
あと不思議なくらいにモルヒネを打つシーンが繰り返されていて、しかもその描写が今までとちょっと違って「むっちりと痛そうに深く刺している」のが流石の【メル・ギブソン】か。