「成長と自立を描いた、宇宙規模のコント(褒めてます)。」映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
成長と自立を描いた、宇宙規模のコント(褒めてます)。
映画クレヨンしんちゃんは、野原家メインの作品と、かすかべ防衛隊メインの作品を概ね交互に発表しています。今年は野原家メイン。野原家だからこそ説得力のある家族愛がこの作品でも描かれていますが、終盤でかすかべ防衛隊も活躍を見せ、ちょっと贅沢な気分になります。
宇宙からやってきたシリリの手によって子供にされてしまった父ヒロシと母みさえを、大人にもどしてもらうため、そしてまたシリリが父親のもとへ行くため、野原家+シリリで旅をすることになる、というお話。まぁ、この辺の設定の荒唐無稽さはいいんですよ。おそらく、この映画のテーマからいうと、子供が大人になるその成長と、親離れ、みたいなものが根底にあるので、ひろしやみさえが子供に戻るというのも、そういったことのメタファーやパラドックスの意味があるのかなぁ?という気もするのですが、後になって考えればあえてひろしとみさえが子供に戻ることの意味もなかったような気もするのですが、それもまぁいいとして。
シリリは、母星においてはきっと障害児として扱われているんでしょうね。誰もが当然に持っている能力をシリリだけが持っていない。そのために父親に迫害されている。なんだか、架空の世界の他所の星のお話とは言えません。シリリがなんだか野原家以上に人間っぽいキャラクターをしていて、憎らしいやら愛おしいやら。弱虫のくせに、いや、弱虫だからこそ強がりで、人のせいにしたり誤魔化したり嘘をついたり・・・。でもそういうことの裏側に、彼の弱さとかコンプレックスとかが常に渦巻いているのが分かるようで、人間より人間みたいなキャラクターだなぁと思いながら見ていました。そしてそんな欠点だらけのシリリが途中から可愛く思えてきて。しんちゃん以上に主役になっちゃってましたからね、ほとんど。本当はシリリみたいな成長やドラマを、しんちゃんや野原家の中から生み出すのがベストだと思うんだけれど・・・(「オトナ帝国」ではそれが出来ていた)。
そんなことを言いつつも、映画の全体のタッチはもういい意味でコント。くっだらないことで笑わさせられます。シリリの旅がすべて父親の手中にあったとか、サーカスのシーンのあまりの唐突さとか、気になる部分も多々あるのだけれども、今年のしんちゃん、私は楽しく見させてもらいました。すべてがいいというわけではないのだけれど、いい部分もたくさんあって、でも欠点だらけの、やっぱり人間味あふれる人間っぽい映画なんだ、クレヨンしんちゃんは。