「美しき画家と女たち」エゴン・シーレ 死と乙女 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
美しき画家と女たち
若くして亡くなった美しき画家エゴン・シーレ。彼の半生には確かに映画的な要素が多数ある。ドラマティックな人生であるし、トピックとなる出来事にも事欠かない。だから彼の映画が再び生まれたことには何も疑問も持たなかったが、作品を見てみて、結局のところ、作り手はエゴン・シーレの何を描きたかったのだろうか?というところがひどく曖昧に思えた。
若い娘のヌードや死生観を作品に投影する過激な感性、あるいはモデルたち(特にヴァリ)との関係、28歳という若さで夭折したその最期、彼が遺した作品とその背景について、そして彼自身のナルシシズム・・・など、映像化する動機としては多数思いつくのだけれど、作品を見てもそのいずれもぴたりと当てはまるものが見当たらない。ならばこの作品独自の視点でエゴン・シーレの半生を読み解いているのか?というとそういうわけでもない。ひたすら記録に残った史実を積み重ねているだけなのだ。伝記映画なんだと割り切れば済む話だけれども、そろそろ史実をなぞるばかりの伝記映画には辟易してきている。その映画ならではの考察やメッセージがなければ物足りなく感じるようになった。
芸術と官能は相性がとても良い。エゴン・シーレが度々ヌードを描き、エロスをテーマに芸術活動をしていたように、この映画もなかなか官能的でセンシュアルだ。この辺はとてもいい。エゴン・シーレを演じたノア・サーベドラの彫刻のような顔立ちから香る妖しげな官能性も相まって、作品自体がセクシャルでありながらも芸術的でとてもいいと思った。
この作品を見て、興味を惹かれるのは、エゴン・シーレが対女性との向き合い方や関係の築き方だ。妹ゲルティとの謎めいた特別な関係も、ヴァリとの報われない愛の応酬も、そしてエディットとの結婚生活も、画一的な価値観では語り切れない不思議さと独自性があり、それぞれの関係にエゴン・シーレらしさがあるようで興味深い。美しい画家と彼を取り巻く女たちに着眼して、そこから彼の人となりを解き明かしていく・・・でも何でもいいから、とにかくなにか一つメインテーマとなるトピックを定めてもらいたかった。
けれども一番ドラマティックで共感を覚えたのは、ヴァリに他ならない。エゴン・シーレとの別れのシーンは切なすぎてたまらなく良かった。