「愛と死に真摯に向き合った青春ドラマ」君の膵臓をたべたい(2017) みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
愛と死に真摯に向き合った青春ドラマ
病魔に侵された女子高生と彼女を支える男子高生の甘く切ない王道の青春ドラマだと思っていたが、全く違っていた。そんなベタな作品ではなかった。作品のクオリティが高く、心の奥深くまで染み渡る感動が得られる秀作だった。
本作の主人公は本好きの地味な男子高校生“僕”・志賀春樹(北村拓海)と、陽気でクラスの人気者である女子高生・桜良(浜辺美波)。“僕”は、ふとしたきっかけで、桜良が病魔に侵されていることを知る。そして、同じクラスの図書委員になった二人は、次第に親しくなり、お互いに惹かれ合っていくが・・・。その後、同じ高校で教師になった“僕”は、図書館の本の整理をしていく中で、当時の彼女の本当の想いを知ることになる・・・。
前半は、主人公二人の会話劇が中心である。一見、病気のことは忘れ去られ、仲良しカップルの恋の行方を追っているようなストーリー展開である。太陽のように明るく、時に思わせ振りな桜良に振り回される“僕”の心境は描かれるが、肝心の彼女の本心は描かれない。しかし、桜良の仕草、表情の僅かな変化から桜良の抱える闇が僅かに垣間見える。物語は直線的ではなく、現在と過去を往復しながら、螺旋階段を上るように、徐々に核心に迫っていく。二人は好対照であり、陽と陰、光と影のバランスが絶妙。何といっても桜良役の浜辺美波の演技が素晴らしい。屈託のない明るさの中に憂いを秘めた演技が出色。“僕”が惹かれるのも納得できる小悪魔振りも御見事。
従来作では、二人の会話と本心は、ほぼ同時進行して描かれるので、全編を通して切なさが充満する。しかし、本作では、桜良の本心は前半では明かされない。前半は“僕”の視点で描かれる。したがって、我々も“僕”の視点で“僕”と同時進行で桜良と向き合うことができる。“僕”の気持ちに感情移入することができる。“僕”の桜良への想いを疑似体験することができる。ここが、従来作とは一線を画した本作の特徴であり、真骨頂である。
後半、彼女の日記を通して、彼女の視点、本心が一気に明かされる。彼女の本心は、生きること、彼への想いに溢れていて、前半の会話シーンを再現して描かれるので切なさが倍増し心の隅々まで染み渡り、涙が自然に頬を伝わって流れてくる。
ラストで、教師になった“僕”は、時を超えて、当時の桜良の本当の想いを知ることになる。本作の過激なタイトルの意味深さに得心し、静かではあるが確かな感動とその余韻に浸ることができた。
本作は、青春ドラマではあるが、本作の、特に、前半の二人の会話劇は奥深く、青春時代真只中の世代ばかりではなく、かつて青春時代を過ごした世代が観ても、十分にその味わい深さを堪能できる作品である。
還暦を過ぎた私のようなおじさんが泣いているのを見たら、周りの人はどう思うか気になってしまいます。古くは時をかける少女等の大林監督作品、少し前だと君に届け、高校生の純愛映画に弱い私です。
今晩は
私は、今作は邦画の青春映画の流れを大きく変えた映画だと思っています。時系列を二つに分割した作品構成。今や邦画を代表する女優さんになられた浜辺美波さんの明るい表情と、憂愁の陰りを漂わせた表情の対比。
そして、月川翔監督の力量。
それまでの(そして今でも王道の)甘い青春映画とは明らかに一線を画した映画だと思います。
■蛇足 この作品の後公開された浜辺美波さん主演の「センセイ君主」。ラブコメだったので、”ちょっと、恥ずかしいなあ””と思いながら劇場公開最終週に観て、浜辺美波さんって、演技の幅が広い凄い女優さんだなあと思いましたよ。では。