劇場公開日 2017年10月27日

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「長い長い序章?」ブレードランナー 2049 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5長い長い序章?

2021年11月9日
PCから投稿

悲しい

単純

知的

旗印ー特別・奇跡、反乱軍。ラスボス。この物語はどこに行くのか。
 『SW』『猿の惑星』『ターミネーター』他のサーガと同じような展開になっていくのか?
 それらと比較できるほど、それらのシリーズを見ていないのだが、柳の下の泥鰌を狙っているようで、げんなりしてしまった。

それなら、前作のみでそっとしておいてほしかった。

映画は、前作をリスペクトして丁寧に作られている。
だのに、全くテイストが違う。

前作。(『ファイナルカット版』を鑑賞)
寿命を否定し、生きる続ける意志を煌めかせたレプリカント達。ロイだけでなく、すべてのレプリカント達が、最期の最期まで、命を燃やし尽くした。
舞台は酸性雨が降る街。バブル期さながら、荒れた土地を見捨てて、上へ上へと伸びたビル群。目立ったもの勝ちとばかりに、これでもかと乱立するネオンサイン。
発展と引き換えに、環境破壊・公害のやり放題。酸性雨が肌にあたって、肌が焼けそうな、そんなまがまがしい、ヒリヒリとした雰囲気・化学物質がまき散らされた世界。
欲・欲・欲の爆発。
荒廃した世界観を描きつつも、欲望が渦巻き、運命に抗おうとするエネルギーに満ち溢れた世界。
人間とは意志を持つ存在だとでも主張したかのような。
「生きたい」との意志を前面に押し出してくる、ロイをはじめとする脱走したレプリカント達。そして、その死にざま…。
それと並行して、はじめ”人間”として登場するレイチェルは、博士の言いなり。だが、自分がレプリカントかと疑うようになる頃から自分の意志で動き出す・・・。その行く末。
 永遠に心に残る。行き詰った時、ロイを思う。流されそうになった時、レイチェルを思う。勇気をもらえる。

そして、今作。
 なんと静謐な映画なのだろう。
 絶望的な状況に陥り、それを否定し、抜け出そうと持てる力をすべて出し切ってあがく”動”の映画が前作なら、
 その努力もすべて泡と化し、諦観の域に達したような。無力の域に達したような”静”の映画。
 前作が”死”を扱いながらも”生”のエネルギーに満ち溢れているのに、今作は”産”を扱いながらも”滅”の影がちらほらする。
 乱立するホログラムがゴーストー欲の残骸に見えてくる。
 それでも、自分が何者なのか、自分の存在に意味を持たすことで、心を満たそうとする者がいる。
 ラストの雪のシーンは宝箱にしまっておきたいほど、切なく、でも魂が満ち足りる。
 Kだけをおえば、★5つなのだが…。

☆   ☆   ☆
記憶。
記録と何が違うのだろう?
自主学習機能を搭載したプログラムに、事実としての記録をインプットしたとして、そのプログラムなりの判断材料として、アウトプットは、どの記録的事実をインプットしたかによって変わってくるのだろうが。それを、人は個性と呼ぶのか。…状況次第であろう。ペットとして所有している場合は、持ち主は、それを”個性”と呼ぶのだろう。
 客観的事実・心的事実。勘違い。意味づけの違いによってその記憶は幾様にも変わってくる。
 催眠術・認知療法…。健忘・抑圧・否認・錯覚…。
 記憶が失われることは恐ろしい。やはり記憶はその人であることの証明か?でも、でも…。

感情。
生まれて最初に分化するのは”快”と”不快”の感情だという。そして、その次が”恐れ”。生命維持のためだという。そして、集団の中で生きるために必要な喜怒哀楽。共感の素。

旧型レプリカントは自然に年数がたつと感情が芽生えてしまうから、寿命を短くしている設定だが、
新型レプリカントは、記録と感情をわざと持たされる。なぜ?場合によっては”嘘”の記憶まで用意して。質問するKにジョシはそれらしい答えを言っているが、私には???。レプリカントの為というより、一緒に働く人間が共感を求める存在だから、感情や記憶を持たせているのだろうと思う。
 機械相手にオペレーション業務をしていた超初期の電話オペレーターは皆ストレス抱え、がっての日本電信電話株式会社はカウンセリングを”企業”として導入した第1号と聞く。一般的に、人間は24時間機械相手のみとは働けない。

すべて人間の都合。
なんと罪深い。

☆ ☆ ☆
労働力として制作されるレプリカント。人間がやれない、やらせられない過酷な作業に従事するために。
その彼らに対する差別。
自分たちが必要としているのに、
自分たちが必要とするから、記憶とか、感情とかいろいろな機能をつけているのに。

「労働力を呼んだが、来たのは人間だった」という予告の『おじいちゃんの里帰り』(合法的にドイツに働きに来たトルコ人たち)。
アフリカ大陸から強制的に、北・中・南米に連れてこられた黒人たち。やがて、ネイティブとのダブルも生まれて”サンボ”と呼ばれ、差別の対象になっていった。もちろん、侵略者である白人たちとのダブルも生まれるようになる。
7K・8Kの零細工場や第1次産業等、日本の現場が必要としているのに、”不法滞在”扱いされる日本人以外の方々。

この映画での、レプリカントと人間の関係。
歴史から学ばないのか我々は。
ここも評価を下げる要因の一つ。

人間は、「ありがとう」の連鎖は生まれないのか。自分たちだけでは生きていけないのに。

(東京国際映画祭2021 屋外上映にて)

とみいじょん