「.」ブレードランナー 2049 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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漸く鑑賞。'82年の前作から35年振りとなる続篇。緻密な世界観に裏付けされた圧倒的で濃密な映像。前作で多かった雨降りの夜景はもとより、くすんだ曇天が多くの舞台となる。前作同様、アイデンティティーの模索がテーマの一つとして全面に突出しており、よりP.K.ディックの原作に近付いている。女性の登場人物達は皆、強く魅力的。描かれているのは遠い未来や現実と懸け離れた世界ではなく、あり得るデストピアでの自己を再確認する物語。M2層・F2層以上の年代の支持が多いのは、前作を懐かしむだけの理由ではない。85/100点。
・鑑賞中、誰がレプリカントで、誰が人間なのかが気にならなくなった。ただ“ラヴ”のS.フークがH.フォードの“リック・デッカード”を護送する際、心を決めたR.ゴズリングの“K(ジョー)”がどの様にして追跡・襲撃出来たのかよく判らない。尚、“リック・デッカード”のH.フォードが本篇に顔を出すのは、100分以上経過してからである。
・濁った薄いグレーやアンバー系の画面が印象深く残った。撮影を務めたR.ディーキンスは、『プリズナーズ('13)』、『ボーダーライン('15)』に次いで監督と三度目のタッグとなる。尚、“K(ジョー)”を演じたR.ゴズリングは、R.ディーキンの撮影とD.ヴィルヌーヴ監督の参加を条件に役を引き受けたと伝えらている。
・R.ゴズリングの役名“K(KD6-3.7)”は、KDプラス6+3+7=16(16番目のアルファベット)=Pとなり、“PKD”──つまり前作の原作者でキャラクター原案としてクレジットされているP.K.ディックを指すと云われている。亦、“K”が受けるポスト・トラウマ・ベースラインと呼ばれるテストはP.K.ディックっぽいが、読み上げ復唱させられる文言は、A.デ・アルマスの“ジョイ”が“K”に薦めたV.ナボコフの『青白い炎』の一節である。
・中盤、鍵となる“6-10-21”から'21年10月6日生まれの男女の双子の内、女児が死亡し、男児が残るとの記録が登場する。P.K.ディックも双子の妹ジェイン・シャーロットがおり、彼女は40日後に亡くなっている。尚、本作はLA、カリフォルニア、ニューヨークで『ファイナル・カット』版が('07年10月5日)公開された十年と一日後の'17年10月6日に米国で一般公開された。
・C.ユーリの“アナ・ステリン”は、抗血管新生ペプチドであるアナステリン"Anastellin"に基づいている。R.ライトの“ジョシ(マダム)”警部補は、「上司」に由来する。亦、“ラヴ”のS.フークスは前作で“ロイ・バティー”を演じたR.ハウアーと同郷のオランダ出身で、孰れもクラマックスで主人公と闘った。雪が降る中、横たわるラストシーンでは、前作で“ロイ・バティー”が雨に打たれうな垂れるシーンと同じヴァンゲリスの"Tears in Rain"が使われている。
・J.レトの“ニアンダー・ウォレス”率いるウォレス社はリンカーン製であり、“K(ジョー)”のR.ゴズリングが操るのはプジョー製である。尚、この二人が顔を合わすシーンは無い。
・プロダクションデザインのD.ガスナーによれば、J.レトの盲目である“ニアンダー・ウォレス”の部屋は京都の清水寺を元にデザインされ、床はシンギングフロア、或いはナイチンゲールフロアと呼ばれる侵入者を足音で知らせる鶯張りが施されている。R.ゴズリングの“K(ジョー)”の住居には“メビウス アパート”との電飾看板があり、これは前作にも大きな影響を与えた仏のバンド・デシネ作家(漫画家)J.ジローのペンネームの一つ“メビウス”に由来する。
・前作同様、劇中では漢字や片仮名・平仮名、ハングル語やロシア語等、多彩な言語の看板や科白が飛び交っており、H.フォードの“リック・デッカード”が隠遁するラスベガスの建物には「幸運」を意味するハングル"행운"の逆文字が見受けられる。“K(ジョー)”のR.ゴズリングに近付くM.デイヴィスの“マリエット”他二名の街娼は"Tää jätkä on Blade Runner. Se on vitun vaarallinen. Annetaan sen olla.(この男はブレードランナーだ。危険なクソなので、立ち去らせよう)"とフィンランド語で話し合っている。この科白はフィンランド在住のK.コソネンが発した。
・当初、監督は“ニアンダー・ウォレス”をD.ボウイにと考えたが撮影前に鬼籍に入った為、断念した。その後、この役はG.オールドマン、E.ハリスが引き継ぎ、最終的にJ.レトに落ち着いた。亦、S.フークスの“ラヴ”役かR.ライトの“ジョシ(マダム)”警部補役で、E.ブラントが考えられていたが、妊娠の為、適わなかった。
・『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー('16)』での“モフ・ターキン”のP.カッシングと“レイア・オーガナ”のC.フィッシャーの合成に満足出来無かった監督は、S.ヤングに協力を仰ぎ、吹替え役のL.ペタに特徴的な歩き方や身のこなし等を徹底的にトレーニングさせた。撮影は“リタ”と云うコードネームの役名で、S.ヤング同席の元、最小限の人員で極秘裏に進められ、トータルで約2分の登場シーンの合成に約一年を費やした。キャンペーンやプロモーションでもS.ヤングの本作への参加は意図的に否定された。
・“ジョイ”のA.デ・アルマス、“ラヴ”のS.フークス、“アナ・ステリン”のC.ユーリ、“マリエット”のM.デイヴィス、“ドク・バジャー”のB.アブディは前作公開時('82年)には、未だ生まれていなかった。
・前作の設定、'19年からの30年間で起こった前日譚として、渡辺信一郎監督『ブレードランナー ブラックアウト2022('17)』、R.スコットの次男L.スコット監督による『2036: ネクサス・ドーン('17)』、『2048: ノーウェア・トゥ・ラン('17)』と三本のショート・フィルムが本作リリースに先駆け、公開された。
・'90年代に何度も本作の企画が持ち上がり、'10年にはC.ノーランが監督に就任するとも噂された。その後、前作のR.スコットが監督すると云われたが、彼は(共同)製作総指揮に留まり『エイリアン:コヴェナント('17)』の製作に入ってしまった。最終的にD.ヴィルヌーヴが監督に収まったが、その際、R.スコットは謎の余地を残すようにとアドバイスしたと云う。製作時には"Triboro"との仮題で進められ、劇場への出荷時もこの仮題が用いられた。
・鑑賞日:2018年1月2日(火)