「現代日本的タクシードライバーくずれ」あなたを待っています エイブルさんの映画レビュー(感想・評価)
現代日本的タクシードライバーくずれ
アウトロー主人公の、最底なクズみたいな日々の、消入るような小さな幸せの泡を掬い上げること、その涙ぐましい切実さを映し出すことは、映画の王道なのはわかっている。
本作は、スコセッシのタクシードライバーを彷彿とさせるようなジャケットどおり、話もその現代日本版といった様相ではあった。
が、本作の主人公は、どうしても譲れないところ、どうしてもこだわりたいところ、つまり、主人公にとっての正義とは何か、これがわからないのではなく、いや、描かれようとしているのはわかった。わかったがしかし、一切、迫ってこなかった。生理的な嫌悪の表現も、悪夢の表現も、地震への恐怖の表現も、後付けの説明に終始した。
なので、ほぼ全編に漂う歯の抜けた笑い声の脱力感の中、ただ一片だけでも光り輝くべき深刻さを欲し、虚しさ、不足感を感じた。
これは、単に演技力の問題なのか、演出にやる気がないのか? ならば、どうしてそうなのか? もしや、楽屋落ちで、終始しているのではないか?
この問題は、プロデューサーの顔ぶれよろしく、昨今やけに祭り上げられているいまおかしんじ監督に、重くのしかかっているのではないか、と、甚だおせっかいながら、危惧する。
監督の作品を観るたびに思ってきた「演ずるとは何か」という問いかけも、引きつった苦笑いになってしまい、もう虚しい気がしている。
「流星待ち」「たまもの」等にはあった、外の世界へと向かう激しさ真剣さはもう望めないのだろうか。
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