「プロットは練られていると思う。がしかし!」ノーゲーム・ノーライフ ゼロ 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
プロットは練られていると思う。がしかし!
最近アニメ化される(昔からそうなのかもしれないが良く知らない)のはTVシリーズありきらしく本作もTVシリーズがあるらしいが、当然のごとく観ていない。
原作はライトノベルらしく作者の榎宮優はイラストも手がけているとか。
去年あたりから急に興味が湧いたので積極的にこの手のアニメーションを見始めた。
超初心者で映画を中心に『ソードアート・オンライン』(第1部と劇場版のみ)『オーバーロード』(劇場編集版のみ)『Re:ゼロから始める異世界生活』(TV版)、最近だと『劇場版 魔法科高校の劣等生』(TV版未視聴)も観た。
さて本作も含めて1つ気がかりな点がある。
始めは葛藤や衝突があったにしろ、ほぼ無条件に100%主人公の男を受け入れる女性(種族は様々)が登場することだ。
現実世界では100%男を受け入れてくれる=「あなたが生きているだけで私幸せ!」という女性はいない!皆無だ!
例え始めはそのように見えたとしても、それ自体が男の願望や妄想であり、百歩譲って本当の場合でも些細なことですぐに崩れる砂上の楼閣に近い!
いやもちろん物語だから、主人公の男は巷に溢れる男とは違って下品じゃないし、正義感があり、女性や大義のために命を落とすイケメン?ではあるのだが…
とはいえアニメ上であれ、この絶対服従感は現実世界の強烈な裏返しにしか映らずあまり健全さを感じない。
純粋なラブストーリーをロボットものに持ち込んだアニメとして『装甲騎兵ボトムズ』や『交響詩篇エウレカセブン』などの名作もあるが、極論すれば主人公の男が性悪女に振り回されている印象を受ける。
またこれに付随してにはなるが、昨今の恋愛アニメが多く制作される理由もこの延長線上にあるのを感じる。
アニメ化することでファンタジーに落とし込むことができるので男女の関係性が肉体的でなくなっていく。
設定を中学生にしてしまえばさらに男女から性が薄れる。
『四月は君の嘘』はその典型であると思う。
筆者はこのTVアニメ版全22話を2016年東京アニメフェスティバルアワードにてオールナイトで一気観した。
その後実写版も観たのだが、まず設定が高校生になったこと、そして実際の配役が山崎賢人や広瀬すずになったことで、とたんに性の匂いを強く感じるようになった。
昨今は『怒り』『三度目の殺人』などレイプされ役が多い広瀬だからというわけではなく(この2作より以前の作品である)、別に山崎がスケベに見えるというわけでもなく、どうしても生の男女のやりとりにはその雰囲気が漂う。
やはり最近実写リメイクされた『心が叫びたがっているんだ。』にも同じことを感じた。
ただ作品としては『心が〜』の方が数段優れてリメイクされていたと筆者は思う。
どうしてアニメの実写リメイク化に批判が集まるのかには、もちろん設定の大幅な変更やイメージに合わない配役、時間短縮によるプロットの強引な辻褄合わせなどの諸問題も関係しているだろうが、この側面も強いのではないだろうか。
せっかく生の男女関係を味わいたくなくてアニメ化されているのに、ずっと昔からか金持ちになってからかはわからないがリア充である制作側はこの心理を全く理解していないのではないだろうか?
まあ売れたから実写化してしまえ!
いやいや!これだけ恋愛ものでアニメが先行している意味をもうちょっとよく考えろ!
もし『君の名は。』が実写化されるとして、女子が自分の胸を揉むシーンであったり、バイト先のお色気ムンムンのお姉さんが登場するなんてエロくなるだけだろ!
本作はさらに極端なまでに性の匂いを消している!
主人公を100%受け入れる女性は生殖機能を持たないロボットであり、しまいには主人公と結婚する。目が・であった。
手塚治虫の短編に『聖女懐胎』という作品があるが、人間とロボットとの間に子供が生まれるという奇跡が現出する。
松本零士作品『セクサロイド』はまさにそっち専用のアンドロイドであり、従順じゃないし人間との違いはほとんどない。
外国映画『エクス・マキナ』では、アリシア・ヴィキャンベルとソノヤ・ミズノが惜しげもなく裸をさらしてAI搭載のメイド役を演じていたが、性的なメイド臭をプンプンさせているし、最後は男を手玉に取ってしまう。
同じ人間とロボットの関係性を描く作品は筆者が知るだけでも性的なものはいくつかあるのだ!
さらに本作が悪趣味なのは、ロボットが主人公に向かって「生殖機能がないから童貞のままでいいか」と口に出して確認を取った上で結婚する点である。
原作者には嫁さんも子供もいるのを知ってなおさらこれはないだろうと思ってしまった。
最近は3次元の異性に興味のない男女もいるという。(そう装っているケースもあるかもしれない。)
筆者は中年であってもいまだ独身であるし、今まで取り立ててモテた人生を送ってきたわけではないが、昨今のアニメ事情をかんがみると、ますます男女の恋愛・結婚は遠のき、日本の出生率の減少に拍車をかけるだけではないかと
老婆心ながらいささか心配になってしまった。
そんなこんなで映画館にて白けまくりの筆者をよそに、前の座席に坐る男性が感動して泣いたように見えたので余計にその思いを強くした。
ただし、現実の女性はほんと強いので気持ちはわかる!
本作のロボットは武力において主人公を凌ぐ圧倒的に強い女性を象徴し、他の種族に比べて弱く平和を愛する人間種は現在の日本を喩えているように感じる。
ロボットも登場し戦争装備に近代性を用いてはいるが、多種にドワーフやエルフなどがいるのも『指輪物語』を始祖とするそれこそ何万回も繰り返される西洋神話に材を取るファンタジーの王道である。
主人公の名前がリクとはなっているが、人間種の名前のパターンが人種的に多種多用である。
こちらに関しては、次回戦争で日本が勝たない限りなかなか脱却できない問題かもしれない、とふと思った。
昨今の日本のファンタジーにおける無国籍性(むしろ西洋性や『将国のアルタイル』のような中東性も含めて)は戦争で負けたことによる自国文化への自信の喪失も関係しているかもしれない。