「3よりマシだが問題多し」相棒 劇場版IV 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.03よりマシだが問題多し

2017年2月12日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

相棒の劇場版も本作で4作目である。3年前の前作 III は,とにかく酷かったという感想しかない超絶的な駄作であったが,反省したのか,I, II に比肩しうる作品まで持ち直していたという印象であった。

今回は派手な爆発シーンなどは見られなかったが,メインイベントのパレードシーンと,町中がパニックに陥るシーンはかなり手間隙のかかった感じがした。しかし,台詞の多いシーンでは,相変わらず人物の胸から上のショットが多く,テレビを見ているのとあまり違いがないのが今回も残念であった。

今回の脚本もまた,日本人に対する説教臭が酷かったのは,流石テロ朝というべきだと思った。まず,いくら自分がひどい目に遭ったからと言って,無差別に 50 万人を殺してやろうというのは,同害報復からあまりに外れた身勝手すぎる話であり,リングの貞子並みの理不尽さではないかと思った。また,70 年前からの恨みを現在まで昨日のことのように生々しく持ち続けるなんてことができるのかというのが疑問であった。疑問といえば,飲食物に毒を仕込んだ場合には,一人でも苦しがる人が出れば他の人は飲み食いをやめてしまうはずなので,多数の人間全員に毒を飲ませるなんてことはできるはずもないのだが,あの連中は「せーの」で一斉に飲んだりしたのだろうかと非常に不可解に思えた。

登場人物が日本のことを指すときに,ことごとく「この国」呼ばわりしていたのもテロ朝らしくて気に入らなかった。旅行等で訪れている国を指すならそれしかないはずだが,日本人が日本のことを指すなら「我が国」であるはずである。語り手の帰属性を全く感じさせない「この国」という言葉を使う人は,何らかの理由で「我が国」と呼べない立場なのではないのかと勘ぐりたくなってしまう。何らかの理由とは,日本人ではないか,あるいは自分の日本への帰属性を認めたくないという理由以外には考え難い。

技術的に最も腑に落ちなかったのは,捜査員全員の携帯にウィルスを感染させるという話であった。ウィルスは OS に依存するので,全員が同じ機種を持っているならともかく,iPhone もあれば Android もあればガラケーもあるというような混在状態では,1つのファイルをメールに添付したくらいでは感染させることなど不可能である。また,着信できなくなるように無線で妨害するというなら,ウィルスに感染していない携帯でもかかりは悪くなるはずである。

海外のテロ事件で犠牲になった日本人の遺体の引き取りに,警視庁の広報課の社が出向くというのもおかしな話だし,遺体だからと言って異物のX線検査もせずにそのまま入国なんてことはあり得ないだろうと思った。また,仮にも警察官だった者が,何の罪もない無抵抗な相手に容赦なく発砲するのかというのも解せなかった。さらに,偉そうなイデオロギーを唱えていた奴が実は金銭目的で犯罪を行なっていたという話は多いが,この話は全くその裏を行くような話になってしまっていて,著しくリアリティを欠いてしまっていた気がした。極め付けは,犯人に対する杉下の行動である。何故あのような行動に出る必要があったのか,見せ場を作るためという理由以外には全く解せなかった。

役者でいい仕事をしていたのは,毎度の伊丹であった。USB の真相が判明した時の顔芸は必見である。一方,前駐英大使役だった江守徹の変貌ぶりには本当に驚いた。10 年ほど前に脳梗塞にかかったという話を聞いて以来久々に見たのだが,しばらく誰だか分からなかったほどである。冠城を演じている反町は,当初水谷がもう一人増えただけではないかと思ったほどキャラが被っていたのが心配だったが,ようやく独自性が出てきたような気がする。一方,テレビドラマの方であれだけ悪役フラグを立てまくっていた山崎警備局長のオチがイマイチだったのでかなり肩透かしだった。

音楽は,TV シリーズと同じ池頼広で,クラシカルで実に心地よい曲を書いていた。エンドタイトルで縁もゆかりもない歌謡曲が流れなかったのも非常に好感が持てた。演出面で気になったのは格闘シーンで,頭を床につけた相手の顔面を真上から思い切り殴る場面であった。あんなことをしたら衝撃の逃げ場がなくて,まともに脳にダメージを与えてしまって,下手をすると相手を殺してしまうはずである。それにしても,杉下はシリーズ開始当初から現在に至るまで 15 年もの間係長のままで全く出世しないというのも非常に奇異に感じられる。特命係だからという理由なのかも知れないが,「太陽にほえろ!」で 14 年間係長のままだった藤堂係長をすでに抜いてしまっている。
(映像4+脚本4+役者4+音楽4+演出4)×4= 80 点。

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アラ古希