劇場公開日 2016年9月24日

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泣き虫ピエロの結婚式 : インタビュー

2016年9月21日更新
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志田未来&竜星涼が真正面から向き合った、命の尊さ

実話がベースになっている作品は、演じる側にも相応の覚悟が求められる。特に、命がテーマとなっていればなおさらだ。「泣き虫ピエロの結婚式」の志田未来と竜星涼は密度の濃い撮影で集中力を維持し、命の尊さと真正面から向き合った。真摯に取り組んで重ねた愛の軌跡は、今を精いっぱい生きることの大切さが伝わる感動を生んだ。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)

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共に1993年生まれ。所属事務所も同じで、竜星がデビューして間もない2010年にTBS「ハンマーセッション!」、テレビ朝日系「秘密」と続けて共演しているだけに、3度目の顔合わせには相通じるものがあった。

志田「安心感がありました。相手役が竜星くんと聞いた時に、良かったなってすごく思いました。熱い方だし、お芝居も取り組み方に関しても現場ですごく刺激を受けました」
 竜星「変に気負うことも格好つけることもなく、さらけ出せる唯一の女優さんって感じがするし、ずっといいものをくれるから僕も純粋に受けて返したいなっていう気持ちがありました」

人を笑顔にすることが好きでピエロの見習いをしている佳奈美は、親友の紹介で出会った陽介に恋心を抱く。だが陽介は、生まれながらにじん臓疾患のため週3回の人工透析が欠かせない。佳奈美はそれを理由に突き放されても、いちずな思いをぶつけ徐々に陽介の心を開いていく。望月美由紀さんの実体験をつづった同名ノンフィクションが原作で、志田は相当な心構えで台本を対じした。

「すごく重たく、悲しい話ではあるけれど読み終わった後に心が温かくじんわりするなと思いました。佳奈美は本当にまっすぐだし、太陽のような子だなと。その一生懸命さに涙が出てきました」

2人は交際を始め結婚の約束をするが、結婚式の前日に陽介の病状が悪化。医師からは残酷な宣告を受けるが、佳奈美は涙を一切見せず陽介のために人生をささげる。その気丈さが心を打つ。

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「心から愛している人を幸せにしたいという佳奈美の気持ちは、完全ではないですけれど理解しようとしました。マイナスのことを考えずに、すべてプラスになると思って突っ走っていく姿は女性としてあこがれるし、格好いいなって思います。表情は笑っているけれど心で泣いていることが多い女の子なので、その切り替えを意識して演じました」

一方の竜星は透析に関する見識を深め、闘病のサイクルを疑似体験することから始めたという。その過程と撮影において、健常者であることのありがたさをかみしめたようだ。

「中途半端なことはできないなという作品だったので、陽介の核となる病気のことをよく知るというところから始めました。いろいろと調べたり、病院に行って話を聞いたり。(撮影の)1カ月くらい前からは、週に3回と決めて病院に通いました。別に何をするわけでもないのですが、普通の人がやれることを全くできないという日常の苦しさを、体に感じたいなと思ったので。お水を飲む時に量を考えたりしないですし、思うところがいろいろありましたね」

陽介は自身の病状をよく知っているがゆえに、人と深く接しようとしない。佳奈美に対してもぞんざいな態度を取り、時には辛らつな言葉も浴びせる。役の上とはいえ、心が痛まなかったのだろうか。

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「僕が実際にそういう立場になったら、どれだけ好きになった人に対しても自分の先が分かっている状態の時に迷惑をかけられない、責任を持てないというところは共感できるなと思いました。そこが陽介の優しさだし、ジレンマ、葛藤(かっとう)がすごく多くて大変だなあと思いながらやっていました」

撮影中には望月さんが表敬訪問。初対面の2人はプレッシャーを感じ、緊張もしたそうだが、結果的にはプラスに作用しクランクアップ時には達成感、手応えを感じたという。

志田「すごく明るくて笑顔が素敵な方だったので、お会いしてあらためて佳奈美像が自分の中でしっかりでき上がったというところはあります。台本を読んだ時は大事なシーンがありすぎて、自分に務まるのかなと思った部分も正直ありましたが、本当に完成が楽しみでした」
 竜星「望月さんに、最初はちょっと格好良すぎるかなと思ったけれど、あの頃をすごく思い出しました。役の僕とリンクして生きている姿を見られてうれしかったと言ってもらった時に感慨深いものがありました」

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役の上とはいえ、これほどまでに誠実な愛をはぐくんだことで、実際の恋愛観にも変化がもたらされたのではと推察してしまう。ここでは男女で意見が分かれた。

竜星「僕はもっと素直になろうかなって思いましたね(笑)。ちょっと似ている部分があるというか、男って格好つけちゃったり、言わない優しさみたいなところがあるじゃないですか。もうちょっと素直に、甘えるんだったら甘えるで自分の気持ちをもう少し分かりやすく表現する方がいいのかなと思いました」
 志田「佳奈美みたいな素敵な出会いをしたいなと思いましたし、まっすぐいちずにその人だけを思える愛があるんだということを知りました。憧れます」

撮影は昨年夏の10日間。炎天下でのロケがほとんどだったため暑さはもちろん、蚊などの虫にも悩まされゲリラ豪雨にも遭った。山場となるシーンが多かったこともあり、2人は「密度は濃かったですね」と声をそろえる。佳奈美と陽介の半生を凝縮して体現したことで、大きな糧を得たようだ。特に竜星は、意欲的に役の幅を広げている印象がある。

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「イメージで生きているのが僕らの商売だとしたら、一定のものにしがみつかず挑戦していく。今はすごく充実していて勉強になるし、これからもこっちをやったら次は全然違う方にというふうにやっていけたらと思います。その分、課題も増えて大変ですけれど、自分がやり切れたと思えば思うほど、しっかり取り組めたと思える。ずっと必死に闘っている感じです」

対する志田には、6歳から積み上げてきたキャリアにおいて確固たる信念があることを明かしてくれた。

「ひとつの作品が終わるごとに、自分は何か成長しているなと思っています。それが何かは分かっていないけれど、次の作品をやる時にちょっとでも自信がついていたらいいなと思ってやっています。新しい作品に入る時は毎回緊張していますが、こんな大変な作品を乗り越えたから大丈夫! って言い聞かせています」

これから何度も現場を共にすることになるはず。互いに成長をし続け、次はいかなる関係性を見せてくれるのか楽しみになってきた。

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