「全能の神ね。いないさ。いないから人は悩むのだよ。」神のゆらぎ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
全能の神ね。いないさ。いないから人は悩むのだよ。
僕は、家にエホバの勧誘が来ると「僕よりも、あなたの一番身近なお子さんをまず幸せにしてあげてください」と、連れだって歩く子供に同情してしまう。
映画の中で妻に浮気をされている男は、「飛行機が墜ちるのは、全能の神がいないからだ」と、エホバの勧誘を追い返す。それは神の問題ではなく科学の問題ではないかとも思うのだが、まあ、どっちにしてもエホバは招かれざる客である。
そんな彼らにとって、ゆるぎなき信仰こそが自らの存在価値である。
それが、揺れるのだ、現実の難問にぶち当たれば。当然だよ、全能の神なんていないのだから。
で、この映画の深いところは、そのテーマを一本の骨にしていながら、何組もの悩める人間を同時に登場させるカラクリだ。みな、法律的ないし道義的に後ろめたい連中だ。しかし、悪人ではない。言わばどこにでもいそうな隣人なのだ。
何の接点もなさそうな彼らが、脈絡もなさそうに行ったり来たり登場してくる。それが、時間軸が過去と現在を折り重ねて進行しているのだと気付くのにやや時間はかかったものの、そこから先はまるでサスペンス映画を観ているような感覚で釘付けになってしまった。『サードパーソン』を思い出させるようだった。
最後にピースがはまるようにラストに向かうのだが、そうなってほしくないという感情が涙を誘う。その感涙のわけは、悲しさとか切なさとかとは違う。あえて言えば、どうしようもない虚しさか。
ところでパンフレット、あのチラシみたいなので400円は高い。
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