「自由で哲学的なフランス映画」奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
自由で哲学的なフランス映画
フランスの高校の落ちこぼれクラスがコンクールに出る話だ。日本のドラマでも似たようなものを放送している。寺尾聰主演の「仰げば尊し」だ。ドラマは吹奏楽コンクールだが、この映画は歴史コンクールというなんともアカデミックなコンクールである。ちなみに吹奏楽部は日本各地でブラック部活として問題になっているようだ。
映画では、自己中心的だが成績が悪くていじけていて反抗的な生徒たちでバラバラの教室を、熱血おばさん教師がコンクール参加の指導のなかで次第にまとめ上げ、生徒たちに自分たちでものを考える力をつけさせる。ステレオタイプのストーリーだが、実話に基づいているそうだ。そういえばドラマ「仰げば尊し」も実話を基にしているとのことだった。
映画の教室は白人と黒人と東洋人、クリスチャンとムスリムといった人種と宗教の入り混じった生徒たちで、中東のIS騒ぎ以来の難民問題の影も微妙に感じさせる面もあり、日本のドラマよりもはるかに複雑でデリケートな状況だ。
結末は大方想像がついていたが、それでも感動する。それはおばさん教師が一人の等身大の人間として、権威に頼らず、強制せず、頭ごなしの否定もせず、正面から生徒たちに向き合った結果だからだ。
フランス映画は議論の場面が多く、映画そのものが哲学的だ。予算だけ豊富なハリウッドのB級映画とは、考察の深さが違う。
そういえば代表的なシャンソン「Sous le ciel de Paris」に次の歌詞がある。
Sous le pont de Bercy
Un philosophe assis
Deux musiciens quelques badauds
Puis les gens par milliers
「ベルシ川の橋の下に哲学者が座り、そして二人の音楽家がいて、それから数千人の人々」みたいな感じの意味だ。多分。
国旗のモチーフが自由平等友愛のフランスでは、哲学は日常生活のなかに普通に存在するようだ。その分だけ、フランスに暮らす人々は精神的に自由である。権威と体罰が大好きな日本とは、自由の質も度合いも違うのだ。