「メインキャスト3人の絶妙なバランス。」マダム・フローレンス! 夢見るふたり 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
メインキャスト3人の絶妙なバランス。
さすが!と言わずにいられないのは、相変わらず芸達者なメリル・ストリープ。実在した音痴なオペラ歌手の役柄を一切の吹き替えなしで演じている。歌を下手に唄うと言ってもオペラとなるとまた話は別で、やはり本人に音楽的な素養と歌唱力がないと相当難しいはず。どこまでも器用で研究熱心で努力家のストリープはここでも完璧に演じ切っていて、本当に感心しきりだった。
脇を支える夫役が、すっかり好々爺然としてきたヒュー・グラントで、彼もまた非常にいい味を出している。かつてのプレイボーイの様相は鳴りを潜めながらも、その分、年輪というか厚みが加わったようで、20年前とはまったく違う存在感があってとても良かった。ストリープもグラントも、二人を見ていると、年を取るってことは素晴らしいことだなぁって嫌味なく思えてくるような気がした。
そんな二人に加えて、ゲイの伴奏者役の若手サイモン・ヘルバーグがチャーミングに花を添える。本当「チャーミング」という言葉がしっくりくる感じ。シーンによってはヒュー・グラントよりも目立っていた部分も大いにあったほど。実際の演奏も彼自身でやっているというから驚き。音程やテンポを外した歌に合わせてピアノを弾くのはかなり難しいはず。それを成し遂げて見事だった。
ただ内容としては、「音痴な人気オペラ歌手」という実にキャッチ―な実在の人物を使った割に、映画自体はそれほどキャッチ―ではなく、脚本も演出もさほど充実したというほどでもなかった印象。確かにとても愛らしい映画ではあったけれども。「音痴なオペラ歌手」という設定の面白さに内容がついていけてないというか、活かし切れないまま終わってしまった感覚が残った。夫がどんな気持ちで妻の願いを聞き続けたか、妻がどんな思いで歌い続けたか、その辺が思いの外あっさりとしか描かれないのは少々不満だったかも。
とは言え、ずっとハッピーな気分で見られる可愛らしい映画だったので、気分よく2時間を過ごさせてもらえた。