「ロマンティック・・・?いいえ、これは不気味。」ある天文学者の恋文 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ロマンティック・・・?いいえ、これは不気味。
親子ほど年の離れた不倫の恋が突然終わるのは、実は病と闘っていた男エドが何も告げずに他界してしまったからだ。途方に暮れるヒロインに、エドは数々の手紙とビデオレターとメールを予め用意し、その時が来たら彼女に届くよう手配していた。ヒロインのもとには、彼からの手紙が渡されるようになる。「P.S.アイラヴユー」にも似た設定ではあるけれど、これがこの映画の場合、ロマンティックというよりも不気味に感じられて怖くて怖くてたまらない。伝えたいことがあるなら手紙一通にまとめろよという考えが無粋だと分かっていても、ここまで手の込んだことをするくらいなら、自分が病気だと分かった時点で別れてあげる優しさだって、あったんじゃないのかな?と冷めた考えが過ぎる。男のエゴイスティックな自己陶酔ばかりが押し出されて感じられて。
生前から、彼女とスカイプしている最中に届くように贈り物をしたりとか、やたら手の込んだことをしていた男。マメな男は素敵だと言われるけど、ここまでマメ過ぎるとかえって怖いし、あまりに女慣れしていて既婚者がこれではちょっと・・・と私なら思う。物語が進むにつれ、彼女のスマホからメッセージ着信音が鳴る度にちょっと背筋が寒くなってくる。その上、ヒロインの隠していた過去まで探っていたなんて、うん、やっぱり不気味。ここまで不気味なら、いっそミステリー仕立てのサスペンス・スリラーにした方が面白かったのでは?
とは言え、この映画がエドからの手紙を通じて、「P.S.アイラヴユー」のような「死後も愛し続けるロマンティシズム」を描いているわけではなく、愛した男の死をヒロインが受け入れていくその過程を見つめているのは分かる。いかにしてヒロインが不倫の恋から目を覚まし、愛した男の死を乗り越えるかの葛藤がオルガ・キュリレンコから感じられて、そこは好感を持てた部分。キュリレンコがとても美しく、彼女を見ている分には悪い気はしなかった。ただ、このオルガ・キュリレンコが魅力的であればあるほど、彼女に手を出したジェレミー・アイアンズがただのスケベオヤジにしか見えなくなってしまうのはちょっとした皮肉だけれど。