「傲慢な男が綴った、終止符を打つための恋文」ある天文学者の恋文 なまこさんの映画レビュー(感想・評価)
傲慢な男が綴った、終止符を打つための恋文
秘密の恋人から、当人が亡くなった後でも届くメール、手紙、ビデオレターに贈り物。
鑑賞中は、惜しみなく与えられる愛の言葉に涙腺も緩くなったものだが、頭の片隅ではずっと「身勝手な男だな」と思っていた。
不倫男の典型というか、妻や子供、社会的立場、自分の持つものはなにひとつ捨てず、そのくせこれがどれほど純粋な愛であるのかを恥ずかしげもなく説く。
降り注ぐ恵みの雨のように愛してると繰り返されれば、そりゃあ女は絆されるって。
こんな風に死後も恋人の心を捉え続けようとするなんて、ずるい男の人だなあ、と。
けれども話が進むにつれ、教授の娘やタイミングを間違えたメール、編集前のビデオ、そういったあれこれから、死してなお恋人の心を捉え続けることに執着した男、という印象が薄れていった。
と同時に、主人公の中にも少しずつ「さよなら」を受け入れる準備ができていったように思う。
死にゆく教授は愛しい恋人を手放す準備、置いていかれる主人公には別れを受け入れる準備というか。
まるで本当の魔法のように送られてきたメールや手紙が全て人の手でなされていたことだということが明らかになり、魔法使いはただの恋に狂った男に戻り、恋人に愛の魔法をかけながら自らそれを解いていく。
自分のコネクションをフル活用して周りを振り回した男の行動は決して褒められたものではないけれど、残された主人公には必要なことだったのかもしれないな、と最後には素直に思えた結末だった。
窓にくっついた枯葉、主人公から離れようとしなかった犬、車窓に寄り添うように飛び続けた鳥、そのどれもが魔法使いが差し向けた愛の使者のように見えるのがとても印象的。
私が翻訳者だったら、最後のIloveyouは「さよなら」と訳したかもしれない。