「人間のおかしみと美しさ」FAKE cocosurviveさんの映画レビュー(感想・評価)
人間のおかしみと美しさ
面白かった。それに、最後まで緊張しながら観た。
もともと森達也さんのファンで、かなりの前評判(軽いネタバレも含む)を目にしていたので、ある程度内容は予想がついているつもりだったので、こんな緊張は想定外だった。
怖い映画だった。
渦巻く悪意の中をよろよろ歩きながらさまよう人間を苦しく見守る映画のはずだったけれど、やはり私は笑ってしまった。
嘲笑ではなく、滲み出るおかしみのせいだ。
それはひとえに佐村河内守という人のキャラクターが、かわいくて仕方がないせいなのだ。
長い髪、かけたり外したりするサングラス、感応性難聴という伝わりずらい障害、「聴覚障害者にしては」流暢な語り口、
彼の風体すべてがあまりにも彼を天才のそれらしく、また胡散臭く見せてしまう。
おそらくこの人は社会の機微に無頓着で、人と関わるときには無邪気な、よくいる善良で繊細な人なんだろう。
もっとうまいやり方がいくらでもあるのに、それができない。
自分が信じているように、他人も自分を信じてくれていると安心している。
巷で噂されているような「障害者を語る金に汚いペテン師」のイメージとはかけ離れている。
もし新垣サイドが潔白であれば、テレビや雑誌で語ったことと同じことをこの映画でも語ればよかったのだ。
裁判でも同じように振る舞えば良いだけだ。
それをしない彼らにも、後ろ暗いところがあるのは間違いない。
「自白した共犯者」として免罪され、自らをプロデュースし、高い社会性で成り上がっていった姿を見るにつけ、ちょろい仕事だと言わんばかりだなと感じた。
この映画を見ながら、私は佐村河内さんを信用しつつあった。
彼が最後の問いにシンプルに答えれば、私はそれを信じただろう。
しかし、映画はそれを映さなかった。
ただ、辻褄は合っている。納得はできた。
この人はおそらく黙ってしまう人なのだと。
それを図星と捉えることもできるし、この人の良心と捉えることもできる。
そんなことは、「主観」であり「真実」とはなんの関係もないことだからだ。