「ぼくにはとても怖い映画だった。」FAKE lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
ぼくにはとても怖い映画だった。
人は見たいものしか見ない、とは定型句みたいなものだけれど、見たいものを見せることに長けたメディアとの共犯関係が、誰かの人生を無邪気に、徹底的に毀損しているのだと思うとゾッとしない。あの頃、佐村河内氏を面白がるような、無責任な言葉を、自分はネット上のどこかに書き込まなかったか。面白おかしく仕立てられた<真実>の拡散に手を貸さなかったか。いま、この映画を観て、しかつめらしく真実の不確かさのことなど考えみたりしているおまえは何様なのか。
結局のところ、これはあの騒動の真実に迫るとかそういった類の映画では、たぶん、ない。「わかりやすい」「面白い」「自分に都合のいい」真実という物語を捏造している、あるいは、捏造に加担しているぼくたちの無頓着を糾弾している、そういう作品なのではないか。いや、そんな風に思えるのは、ぼくが疚しく思っていることの裏返しなのかもしれない。少なくともぼくは、あっけらかんと笑って観られるほど、自分に自信が持てない。心のある部分を酷く打ちのめされてしまった。
心底、怖い映画だった。
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