「黒か白かよりも大切なこと」FAKE 大方大輔さんの映画レビュー(感想・評価)
黒か白かよりも大切なこと
明らかにどこかで嘘をついているのがわかっても、魅力的な嘘をつく人と、人を遠ざける嘘をつく人がいる。
例えば、
ティムバートン作品の「ビッグ・フィッシュ」に出てくるホラ吹き父さんのような人が前者。
400人いた友達をすべて失ってしまった佐村河内は後者だ。
佐村河内は、楽曲の制作において、ほぼ全てが共作であったのに単独制作だと欺いていた。そこは大衆の前でカミングアウトしているし、世間もマスコミも周知で既に過去のものになっている。
それでもなお佐村河内は、森監督や、外国人ジャーナリストの問いかけに対し、頑なに、知られたくない何かを守っている。
自分のためなのか。誰かのためなのか。
罪の意識なのか。
何か、うっすらと嘘をついている、ように見える。
それが自分を守るためだけだとしたら、うんざりするほど魅力のない嘘。
周りの近しい友人たちが離れていってしまったのは一つの事実。
佐村河内自身が白か黒かは、
そこまで大事なことだろうか。
それより、
人を惹きつけるか否か、なのではないだろうか。
どんなに嘘をついてるとしても、
魅力がありさえすれば、それでいいと思う。
なんにも過去から吹っ切れていない表情。くすぶっているオーラがハンパない。
そんな佐村河内を見ていると、息苦しくてたまらなくなる。
堂々としろよ!!(怒)
またそのフリーズ顔やめろ!!(怒)
と同時に、平然と強い態度をつき通せない、ナイーブな人柄も垣間みえるのが可愛らしいところ。豆乳好きすぎて可愛すぎ。
うーん...。
耳ってわりと聞こえてるんじゃないの?
なんでそれが聞こえて、それが聞こえないの?
新垣は接触したがってるの?何なの?
あれ?新垣が嘘をついてるのか?
楽器弾けるの弾けないの?
聞こえないのにOK出せるの?
てか本当に音楽を愛しているの?
映画全体を通して、
いーろんな曖昧なグレーが漂いまくる。
そんななか突如現れる、
テレビ局の、限りなく黒に近い黒。
そして、
バッキリ輝きを放っている、
佐村河内への愛。
グレーにまみれているからこそ、
確固たる奥さんの愛が、
くっきりと浮き彫りになって感じられる。
(それが佐村河内だけに対してじゃないのも素晴らしい。ケーキのバリエーション!)
この映画には、
間違いなく愛が記録されている。
(遠出したときの腕を組んで歩いてるカットなど、さりげないけど本当に美しい)
そこは本当に、間違いない。
信じる、信じないとかではなく、
どうであれ受け入れるのが当たり前だと。
そんな奥さんの姿勢は、ある種受け取る側のひとつの答えを提示しているのかもしれない。
疑うのも疲れるでしょ?楽になれば?
とも言われているような気がしてくるのは、大げさだろうか。
さて、
衝撃のラストシーンは、
白か黒かどころではなく、
本当にいろんな詮索や想像ができてしまう。
いずれにせよ、ラストの曲は、共作の制作スタイルがメインだった佐村河内にとって、初の100%ソロ楽曲だろうし、彼はここから始まったのだという見方もできる。
本当に彼が作ったのであれば。
監督の靴下と最後の問いかけは、
「嘘にしたくなかったらてめえで本当に塗り替えてみろ」
という監督の、愛ある怒りではないだろうか。
白と黒とが衝突して、ゼロになった今(いうても見せかけのFAKEだけど)、ここからどう舵を切るかは、彼次第だ。