「予備知識なく今すぐ観た方がいい」マネーモンスター saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)
予備知識なく今すぐ観た方がいい
とにかく予備知識なしで今すぐ観に行った方が良い。
今年観た映画で1番好き。大傑作だと思う。
まるでジョディフォスター監督に会って来た様な感覚になった。
2回鑑賞すると、この映画がどれだけ良くできているかが再認識できた。
監督賞・脚本賞・編集賞は絶対。
そして白眉は何と言ってもジャック・オコンネル。
英国人の彼がNYアクセントを完全に習得。
話し方や発音だけで、この役が決して富裕層の生まれでない事を表現してる。
アンブロークンの役とは全く別人!
助演男優賞ものの熱演だ!
とにかくジャックオコンネルから目が離せない。主演の大スター2人を完全に食ってた。
ジョージクルーニーの軽薄なニュースキャスターっぷりも爆笑で、その彼が変わっていく様はまるでみのもんたが古舘伊知郎になっていくようだった!!
この映画はものすごい情報量と速度で話が進み、後半は緊迫感に満ちてる。こちら側で話が進みながら、一方、向こう側でも話が進む。気を抜く間もなく一気に映画の中に引きづり込まれ、没入させられた。エンタメ性の高い映画であると同時に、力強いメッセージ性。これは正義を問う映画ではなく、正気を問う映画だ。
あぁ…ジョディフォスターがとにかく凄すぎる。
彼女はとても素直で真面目で、優しいんだけど決して甘やかさない、厳しさもある。
Oh Jodie!!!
一気に彼女が好きになった!
立てこもり事件が起きて、バーでテレビに夢中になる人々のシーンがあるが、それらのシーンと同等の扱いで、テレビを見ている韓国人富裕層の若者が面白がって投資をしたり、男たちがゲームに夢中で事件の放送を見ていない、などがさり気なく置かれている。がしかしそれらが後に重要な人物になっていくところなんかはとても巧みだと感じた!
フリの為のフリになっていない。しっかり二重に意味がある!とてもしっかりできていた。
真っ先に思い出したのは「マッドシティ」
これも立て籠もり犯人とTV報道記者の話。
この犯人も同様に短絡的で感情的、不安定で扱い辛く子供っぽいが、実は素直で良い奴。マッドシティは厳しいラストだったが、
マネモンの結末は…ふふふ…
劇中内にはTV番組用のカメラが4台あります。それとは別にこの映画用のカメラもある。映画用カメラと番組用カメラの使い方が絶妙で、その役割を最大限に活かしている。
例えばジョージ扮するリーが、広告担当の女とはなし始め、いったい何が実際に起こったのかを聞き出そうとするシーンは映画用カメラでなく番組用カメラの映像を使っている。真正面の番組用カメラを見つめ追求するリー。その姿は、くだらないダンスをしながら娯楽的報道をやっていたリーとは似ても似つかない、真剣に事の真相を追求しようとする本物のジャーナリストとなる瞬間だ。
番組用カメラには映画用カメラは映ってはいけないので、どう撮るかを相談した際、同じシーンを2回とる事にしたという。番組用カメラで1回、映画用カメラでもう1回。これは大変な作業だ。これはジョージクルーニーの提案らしい。
この映画は実に巧みに音楽を使っていて、ダメな映画だと音楽で誤魔化したり、大袈裟にしたりするものだが、この映画は、音楽が物語を本当に上手く引き立たせている。出しゃばったりせず、しっかり支えている。
前述した、リーが真剣に事の真相を追求し始めるシーンでも、とても絶妙なタイミングで音楽が流れてくる。
ここはリーがこの事件と初めて真剣に向き合い始める重要なシーンだ。
このような、絶妙なタイミングで音楽が流れ出す箇所がいくつかあった。
この映画での音楽の良さは伝わりづらいが、映画の邪魔をせずに引き立たせる事に成功しているので、映画音楽としてはかなり巧みな出来だと思う。
あとは美術も良かった。番組のセットに大きなドル札の顔がある。その大きな顔の目が所々で背景として映るのだが、事件の行く末をジーッと黙って見つめるその目!!
ウォールストリートの人間から、TVの前の主婦まで、あらゆる人がジーッと見ているようで、たまらん!
ラストシーンでは、建物内に野次馬はいない。現場には誰も座っていない椅子がたくさん並んでいる。その並んだ椅子が、人々はそこにいないがTVの向こうから事件の顛末を見ている事を表現している。映像表現としてとても巧みだと非常に関心した。
エンディングのシーンに関して、
もしあのまま、カイルが撃たれ、バーでTV中継を見ていた男が、またすぐにゲームに戻り、画面暗転し、ゲームのカコンッという音が響いた所で映画が終わっていれば、一生忘れられない、衝撃の冷淡なエンディングになっていたであろう。
その後のシーンは、少し蛇足に感じないでもないが、「さて来週からどんな番組をやる?」という台詞で終えるところは、ジョディフォスターの人柄が出てるなぁ〜!と感じた。映画として、とても美しいエンディングではあったと思う。
因みにマネーショートと比べて微妙、という意見が散見するが、マネーショートと比べるのは間違っている。
ジョージクルーニーがインタビューで答えてます。「マネーショートでは経済的な状況がとてもうまく描かれてるけどこの映画の焦点はそこじゃない。むしろキャラクターが本題となってる」
映画をしっかり見てれば、そこがテーマではないことは明らかだと思います。
この映画は「軽薄でうぬぼれ屋のリーゲイツがパティに助けられながら難局を切り抜ける中で人間的な心を見出して成長していく」話である。(byジョディフォスター)
だからラストシーンで、「さて来週からどんな番組をやる?」という台詞がある。
パティはマネーモンスターという番組に残る事を決意し、リーゲイツはパティと共にこれから意義のある番組作りをしていくんです。