HK 変態仮面 アブノーマル・クライシス : インタビュー
鈴木亮平、2度目の変態仮面へ迷いなき決断
女性のパンツを頭から被った“変態”と名の付くヒーローを演じるこのシリーズを、鈴木亮平は迷うことなく自身のキャリアにおける「代表作」と言い切る。同時に「越えていかなきゃいけない壁であり、プレッシャーをかけ続けてくれる存在でもある」とも語る。(取材・文・写真/黒豆直樹)
2013年、決して大きいとは言えない公開規模で興行収入2億円という異例のヒットを記録し、鈴木にとってもその後の飛躍へとつながる作品となった「HK 変態仮面」。あれから3年、続編となる「HK 変態仮面 アブノーマル・クライシス」が公開を迎える。
そもそも同シリーズ、鈴木の俳優仲間でもある小栗旬が原作コミックの映画化を熱望していた。鈴木に主演を持ちかけて、企画が始動。小栗自身も脚本協力という形で参加し、映画化にこぎつけた。間違いなく“イロモノ”に分類されるタイプの作品だが、鈴木は当初から「この作品は絶対にいける!」という確信を持っていた。
「何なんでしょうね(笑)? こういうヒーローが他にいないからでしょうか。いろんな要素が詰まっていて、ただのヒーローものじゃなくて笑えるんだけど格好いい! 一番特殊なのは、普通のヒーローは変身して服(スーツ)を着るのに、変態仮面は脱いじゃう。まあ、ハルクか変態仮面かですよね(笑)」。
一度ならず、二度までも異色のヒーローを演じることになったが、3年前とは鈴木を取り巻く環境は大きく異なる。NHK連続テレビ小説「花子とアン」などで全国区の知名度と人気を得たいま、イメージを考えれば断ってもおかしくはないが、鈴木自身「ヒーローと言えば、やっぱり3部作でしょ(笑)」と当初から続編を当然のことと考えており、躊躇なく再びパンツをかぶった。
「そこは迷わなかった。もともと、自分たちで始めたことですから、僕の状況がどう変わっても気持ちは全く変わらない。3部作構想に関していうと、この作品はアメコミのヒーローを意識した作りになっていますが、これだけアメコミ映画が世界で受け入れられているなか、21世紀の新しい日本発のヒーローとして対抗できるのは変態仮面だろうって思っています。そこで世界に売り出すなら、3部作じゃなきゃ格好がつかないでしょう(笑)? もちろん、それが実現するかは今回の作品次第ですが」。
役柄に合わせて肉体改造を行い、近年では作品ごとに体重を大幅に増減させたかがニュースにまでなる鈴木だが、最初にそうした役作りが注目を集めたのも、1年をかけて彫像のような肉体を作り上げた「HK 変態仮面」だった。続編でも、前回以上の強く大きな肉体を拝むことができるが、一方で、緻密に役柄の内面を表現する“知性”を兼ね備えた鈴木が、“肉体派俳優”という一側面のみで注目を浴びるのは、何とももったいない気がする。
「そこは僕がどういう役を選んで演じてきたかというところに原因があるので、あまり気にしても仕方ないかなと思いますね。どうせなら、自分にしかできないと思える役を演じたいし、その過程で必要な作業のひとつとして体も作っていますし、大事なのはバランスですね。逆に、これだけ頑張って体を作り上げて、誰にもそれを取り上げてもらえなかったら寂しいですから(笑)」。
作品選びに関して「よく『選んでいない』と言われますけど、選んだ上でこれなんですよ」と笑う。
「どこかでいつも『この作品が最後になるかもしれない』という思いは持っています。言葉は悪いけど『今日、死ぬかもしれない』という思いは昔からあって、そうなった時に悔いを残したくない。精いっぱい生きたと思いたいし、だからこそ、全力で情熱を傾けたい」。
第1作の「HK 変態仮面」に出演する際は、数年はCMや堅い作品のオファーは来ないだろうと覚悟の上で臨んだというが、いい意味でそうした予想は裏切られた。翌年には「花子とアン」に出演し、その後も「天皇の料理番」など次々と話題作に参加し、いまや映画にドラマに引っ張りだこに。この3年ほどの時間の中での変化について、鈴木はこう語る。
「基本的に、自分のスタンスは変わってないですが、大きな役をいただくことが増えて、作品そのものに対する責任感は強くなったと思います。自分をどう見せるかではなく、作品をよくするために自分に何ができるのか? 作品が愛されなければ、どんなにいい芝居をしても意味がない。自分の存在感を消すことで作品が良くなるなら、迷わずそちらを取れるようになりましたね」。
では、視聴者や周囲の反応についてはどのように受け止めているのだろうか。
「そこは確かに大きかったです。僕自身、何かが大きく変わったわけじゃないのに、朝ドラの放送が始まった途端、急に周囲が変わるのを感じて、最初は受け止められない自分がいたし、そこに振り回されないようにとも思いました。ただ、それから少しして『天皇の料理番』のために半年にわたって減量しなくてはいけなくなったんです。その時期、他の仕事はしていなくて、食べ物を食べずにずっと自分と向き合う時間がありました。いま振り返っても地獄の日々ですが(苦笑)、一方で、ひとりで自分を見つめ直し、気持ちを落ち着かせることができたし、そこで地に足をつけることができたのは、すごく大きな経験でした」。
いま、こうして押しも押されもせぬ人気俳優になっても、この先、年齢を重ねていこうが「変態仮面」の存在の大きさは変わらない。いや、キャリアを積めば積むほど、大きくなっていくのかもしれない。
「全力でぶつかれば、人は認めてくれるってことをこの作品で学んだし、このキャラクターを超えるものを残していかないといけない。そうじゃなきゃ“変態”のイメージしかない俳優になっちゃう(笑)。そうやってイメージを常に上書きし続けて、世間が忘れたころにもう1作できたら最高ですね!」