「静謐な中、不意に出現する歪さ」ダゲレオタイプの女 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
静謐な中、不意に出現する歪さ
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映像の世界に国境など存在しない。わかりきったはずのその言葉を改めてぐっと噛み締めた。とりわけ黒沢印ともいうべき窓辺のほのかな明かり、揺らぐカーテンの彼岸性はどうだ。あの映像を受けて全身の体毛が逆立ち背筋がぞぞっとくるような感触を、フランス人も同じく抱くものであってほしいと願うばかりだ。
本作の真価など、ダゲレオタイプの写真のごとく歴史が証明すればそれで良い。もちろん初の海外進出ゆえに課題も残ったはず。展開は回りくどく、役者陣の演技はもどかしい。転がる薬瓶。唐突な転落———。だが一方で、黒沢の残した確かな爪痕もたくさん見受けられた。何よりも時空と生死の境を貫く不可思議な映画装置を出現させることに成功しているし、あれほど歪な空気、暗闇に浮かぶ蒼を創出できる人は、世界中探してもそうそういない。異国の地で黒沢清パビリオンを体感したような感覚。ヒリヒリする幻をまるで白昼夢のごとく楽しんだ。
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