「ガザに届け、平和への歌声」歌声にのった少年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ガザに届け、平和への歌声
“ガザ地区”とはその名の由来の地方都市ガザを中心とするパレスチナ最大の行政区画である。
パレスチナとイスラエルの衝突。イスラエルとハマスの衝突。度重なる紛争に晒されてきた。
本作の舞台の時代、製作/公開された頃、今とではガザ地区を取り巻く問題はさらに深刻。
だからこそ、この歌声が響く。
劇中で子供たちが言う。ガザなんかで…。
しかし、どんな場所・状況・環境であっても、子供たちは同じだ。
夢を抱く。
少年ムハンマドは歌が上手い。夢は、世界的なスター歌手になる事。
姉ヌールは応援。夢は、弟をオペラハウスで歌わせる事。
姉や友達とバンドを組んで大いなる夢を目指す。
町中を元気いっぱい自転車で駆ける。一瞬ここがガザである事を忘れるほど。
子供たちの夢と明るさは誰にも止められない。
…突然の悲劇以外は。
姉が病で急死。
まだ幼い娘を亡くした両親は悲しみに暮れるが、ムハンマドも激しいショック。大事な何かを奪われたかのように、夢を追う事を諦めてしまう…。
数年が経ち、成長したムハンマドは学費を稼ぐ為にタクシー運転手のバイト。客として乗せたのは、かつて夢を目指そうとした友達。
歌手にならないの…?
あなたの歌が好きだった。歌って。
暫く歌っていなかったが、久しぶりに歌って…。
何かが胸を駆け巡る。
また再び、夢を目指す。
エジプト・カイロのオーディション番組に出場する。
しかしそれには、道中危険を伴い…。
ドラマチックな話だが、それもその筈。ガザ出身の歌手、ムハンマド・アッサーフの実話に基づく。
日本ではほとんど知られてないが、中東では知らぬ者はいない人気スターなんだとか。
多少脚色はあるだろうが、実話なのだから話が出来過ぎでもオーディションがあっさりでも、文句は言えない。
ガザ地区舞台なんかだと政治や宗教や紛争で小難しそうな印象だが、非常に見易い。
その所々、崩壊した建物や町並み、ガザからカイロへ向かう途中の危険など、現実に引き戻される。
現実から目を背けていない。
本当に夢を叶えた。
もう一つ、叶えたい夢があるとすれば…。
ガザに平和を。
その夢に願いを込めて。思いを込めて。
僕は歌う。
ガザに届け、平和への歌声。

