「イリスト風味パンを、ちょうだいまし。」袴田巖 夢の間の世の中 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
イリスト風味パンを、ちょうだいまし。
黙々と歩き続ける習性が身に着いた、50年近い刑務所生活。いまだ健常な姉との会話は、どこか拙い。妄言もたまにこぼれる。すぐ目の前に常にあった、自分の望まない死の恐怖が彼をそうさせたのだ。ああ、誤った司法は、この人をここまで壊してしまったのか、と心が痛んだ。親族や支援者を含め、会いに訪れる人たちは皆笑顔なのだが、それは釈放された今だからこそ。この人たちだって、ずっと苦しんで戦ってきた人たちなのだなあ、としみじみと見入った。
でっち上げ捜査で捕まって48年。その長い長い時間を奪われることを、あなたは想像できますか?それだけで僕は気が狂いそうだ。袴田さんの足の親指の巻爪が、脳裏から離れない。
『私が長い獄中生活で学ばざるを得なかった「自由」というものは
このような強烈な無念さと一種の眩しさをもっている
私はあらためて自らに質問しつづけている
お前は罪のない身でありながらいつになったら自由を取り戻せるのか』袴田巖
コメントする